2016年11月11日金曜日

商人と商行為の話(その2)

司法書士の岡川です。

前回の話を見てわかると思いますが、ある行為が商行為となるかを確定するのには、「商人」の定義と「商行為」の定義を行ったり来たりすることもあり、非常にややこしいのです。

例えば、ある会社が人に金を貸した行為が商行為に当たるかが争われた事件があります。
これが商行為にあたるとすれば、商法522条(商事消滅時効の規定。民法の消滅時効より短い)が適用されることになる事案でした。
しかし、金銭の貸付行為自体は、商法に列挙された商行為ではありません。

これに対する最高裁の判断は、

株式会社が事業としてする行為は商行為とされる(会社法5条)。
  ↓
会社は「自己の名をもって商行為をすることを業とする者」(固有の商人)である。
  ↓
商人の行為は、その営業のためにするものと推定される。
  ↓
会社による貸付行為は、会社の営業(事業)のためにしたものと推定される。
  ↓
反証がないので、当該貸付は商行為である。


ということで、結論としては商事消滅時効の規定が適用されるということになりました。
(この論で言うと、会社の事業外の行為には、商行為にならない行為もありうる、ということも含意していると考えられます。)


単なる貸付は(絶対的・営業的)商行為ではありませんが、営業的商行為の中に銀行取引というものがあります。
銀行は銀行取引を営業としてやってますから、商人だということになります(銀行は株式会社ですので、その意味でも商人ですね)。

ただ、銀行と同じようなことを銀行以外の金融機関もしています。
たとえば、信用金庫や信用組合、農業協同組合、労働金庫などなど。


ところが、信用金庫や信用組合は営利を目的とするものではない(また、これらは株式会社でもありません)ため、商法上の商人には当たらないと解されています。
なので、これらの(非営利の)金融機関からお金を借りても(当然には)商法は適用されません。

同じように、貸金業者は「銀行取引」をするものではないため、業者が個人の場合(会社でない場合)は必ずしも商人とはなりません。
つまり、個人の貸金業者については、(当然には)商法が適用されないということです。


ここでさらに気をつけないといけないのは、当事者の一方にとって商行為だったら、双方に商法が適用されるということです(商法3条)。
つまり、借りる側にとって商行為だったら、信用金庫とか個人の貸金業者から金を借りても商法が適用されます。


要するに、一見して条文に列挙された商行為に該当しなくても、何やかんやで結構商法って適用されるんですよね。


逆に、バリバリ仕事やってても商人でもなければ商行為にならないこともあります。
我々のような士業の業務も 、基本的には商行為ではなく、商人にはなりません。


商法が適用されると、単純に民法が適用される場合と違った結論になることもありますので、注意が必要です。
消滅時効とか委任報酬とか利息とか利率とか。


ちなみに、司法書士の簡裁代理等関係業務認定考査にも出るから、認定考査の勉強してる方は商法の存在をお忘れなく。

では、今日はこの辺で。

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