2016年11月6日日曜日

商人と商行為の話(その1)

司法書士の岡川です。

今日は引き続き商法のお話です。

商法を理解するうえで重要な概念が「商人」と「商行為」です。
商法の適用範囲は、これらの概念によって規定されています。
すなわち、商人や商行為について適用されるルールが商法で定められているのです。

もちろん、ここでいう「商人」の読みは「あきんど」ではなく「しょうにん」ですし、「商人」の語からイメージされるような「商売人」とは同義ではありません。

「商人」というと、何やら古めかしい言葉ですが、立派な法律用語なのです。


ここから下、商法の基本的な話なのですが、それでいて非常にややこしい話でもあるので、あんまり法律に興味のない人は読まないほうがいいかもしれません。


まず「商人」の定義ですが、これは、商法4条1項で「自己の名をもって商行為をすることを業とする者」と定義されています。

これが基本的な定義なのですが、さらに、「店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者又は鉱業を営む者」については、商行為をすることを業とする者でなくても商人とみなされます(4条2項)。
これを擬制商人といいます(「擬制商人」に対し、1項の定義に当てはまる商人を「固有の商人」といいます)。
なぜ擬制商人という概念が必要になったのかは、後で出てきます。

固有の商人の定義を見ればわかるように、商人とは何かを把握するためには、その前提として「商行為」の定義が重要になります。
商行為が何かわからないと、商人の定義もわからないことになりますね。

そこで「商行為」の定義ですが、これは商法に具体的に限定列挙されています。
まず、以下の4種類の行為は、常に商行為となります(絶対的商行為)。

1.利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産若しくは有価証券の有償取得又はその取得したものの譲渡を目的とする行為
2.他人から取得する動産又は有価証券の供給契約及びその履行のためにする有償取得を目的とする行為
3.取引所においてする取引
4.手形その他の商業証券に関する行為

これらは、行為の性質上、営利性が強く、誰がやっても、1回きりの行為であっても商法の適用対象とすることが適当であると考えられる行為です。


それから、以下の13種類の行為は、「営業としてするとき」に限って商行為となります(営業的商行為)。

1.賃貸する意思をもってする動産若しくは不動産の有償取得若しくは賃借又はその取得し若しくは賃借したものの賃貸を目的とする行為
2.他人のためにする製造又は加工に関する行為
3.電気又はガスの供給に関する行為
4.運送に関する行為
5.作業又は労務の請負
6.出版、印刷又は撮影に関する行為
7.客の来集を目的とする場屋における取引
8.両替その他の銀行取引
9.保険
10.寄託の引受け
11.仲立ち又は取次ぎに関する行為
12.商行為の代理の引受け
13.信託の引受け

これらの行為のうち、「専ら賃金を得る目的で物を製造し、又は労務に従事する者の行為」については、商行為から外されます。

さらに、「商人がその営業のためにする行為」は、商行為となります(附属的商行為)。
つまり、上記のような商行為を業とする者が「商人」であり、さらに、そのようにして定義された商人がその営業のためにする行為も商行為となるわけです。
また、「商人の行為は、その営業のためにするものと推定する」という規定がありますので、商人の行為であれば、反証がない限り商行為だということになります。


さて、ここで列挙した商行為を見てみると、例えば、第三者に売る目的で動産を取得したり、そこで取得したものを売却する行為は、絶対的商行為(1号)に当たります。

ところが、農業や漁業のように自分で自然から何かを取得しても商行為には当たりませんし、そのようにして取得した物を売ることも商行為として定義されていません。
つまり、農家が自分の畑でとれた作物を売っても、基本的には商行為ではありません。

かといって、自分の畑でとれた作物を売るのと作物を仕入れて売るのとで、常に異なる扱いをするのは具合が悪い。
農作物を売っている店があっても、その店が自分の畑でとれた作物を売ってるのか他から仕入れて売ったのかで商法の適用の有無が変わってくるのは不均衡だし、買う側によってはそんなこと知る由もないわけです。

というわけで、最初に出てきた擬制商人という概念が生まれます。
自分の畑でとれた作物を売るのは商行為じゃないんだけれども、店舗を構えて本格的に売るようになったら商人とみなされますよ、という規定になります。

さらに、前述のとおり、商人の行為は商行為と推定されます。
つまり、農家が店で米を売っていたら商人とみなされ、その人の行為は商行為と推定されることになります。


さて、この話、もう少し続くのですが長くなったので、残りは次回に回すとします。

では、今日はこの辺で。

商人と商行為の話(その2)

0 件のコメント:

コメントを投稿