2018年2月20日火曜日

債権法改正について(15)(債権者代位権)

司法書士の岡川です。

今日は債権者代位権の話です。
だいぶ条文数が増えておりますので、気合入れましょう。

前回までの債務不履行とかは比較的わかりやすい制度(約束破ったときの損害賠償のルール)なのですが、債権者代位とかなると、改正どうこうの以前にそもそもどういう制度なのか理解するとこから始めないといけません。

そもそも債権者代位権とは

代位というのは、他人に代わって権利を行使することをいいます。
「代理」と違って、本人から与えられた代理権限に基づいて権利を行使するわけではなく、一定の要件を満たした場合に本人に成り代わって(専ら代位者側の都合によって)権利を行使することが認められる(=請求することができる地位を取得する)制度です。

債権者代位は、債権者が債務者に代わって債務者が(第三者に対して)有している権利を行使することになります。

抽象的に書くと何言ってるかわかりにくいので具体例。

AさんがBさんに1000万円貸しているとします。
いつまでたっても返済されないので、Aさんは、Bさんを訴えて、強制執行により債権を回収したいと思っていますが、Bさんはこれといった資産を持っていません。
唯一、BさんにはCさんから購入した土地があるのですが、登記名義はCさんのままになっています。
どうせAさんに持って行かれると思って、Bさんは登記名義を自己に移さずに放置しているようです。嫌がらせか。
このままでは、Bさんに対する勝訴判決をとっても差し押さえをすることができません。

こういう場合、Aさんは、Bさんに代わって、登記名義をCさんからBさんに移す(移転登記請求権を代位行使)することができます。
これが債権者代位です。

債権者代位権に関する改正


まず423条1項但書きに規定された債権者代位権を行使できない権利として、一身専属権に加えて「差押えを禁じられた権利」が追加されました。
もっとも、これは従前からの確立した解釈ですので、実務上特に何も変化なしです。

また、被保全債権の期限が到来する前に債権者代位権を行使しようとするときは、現行民法では「裁判上の代位」によらなければならない(具体的には非訟事件手続法に基づく代位許可の申立てをする)とされていますが、これが削除され、履行期前に債権者代位権を行使することは完全にできなくなります。
もっとも、裁判上の代位は全くと言って良いほど使われていないらしく、しかも保存行為であれば(現行法でも改正法でも)裁判上の代位によらずに代位権行使が可能なので、特に実務上の影響はなさそうです。

さらに、423条3項として、「その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。」という条文が追加されましたが、これも従来から当然のこととされていましたので、確立した解釈が明文化されただけです。


現行民法では、債権者代位権に関する条文は423条だけなのですが、改正法で423条の2~7が追加されます。
このうち、423条の2(可分債権を代位行使する場合は、被保全債権額の限度でのみ代位行使できる)、423条の3(金銭の支払いや動産の引渡しを目的とする権利を代位行使する場合は、直接債権者に支払い・引渡しを求めることができる)、423条の4(被代位権利の相手方は、債務者に対して主張できる抗弁をもって債権者に対抗できる)は、確立した判例が条文化されたものです。

しかし、その次の条文は、判例のルールを変更しています。

第423条の5 債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。

判例では、債権者代位権が行使されたことを債務者が了知した場合、債務者が自ら被代位権利を行使して取り立てを行うことは認められていませんでした。
これに対し、改正法ではこの判例を明確に否定し、債権者代位権が行使された場合であっても、債務者が自ら権利行使することは制限されないことになります。


手続的なところでは、

第423条の6 債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。

と規定されますが、これは新設されたルールです。


それから大きな改正点は、最後の条文(423条の7)の追加です。

第423条の7 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。この場合においては、前三条の規定を準用する。

これは、判例で認められていた、「転用型」と呼ばれる債権者代位権の行使方法が明文化されたものです。

債権者代位権は、典型的には冒頭に書いたように、債権者が自らの金銭債権の保全をするために債務者の権利を代位行使することが本来的な使い方として想定されています(これを「本来型」という)。

これに対し、例えば、AさんがBさんから不動産を購入したが、その不動産の登記名義が、Bさんの前の所有者であるCさんのままになっている場合、判例により、Aさんは、Bさんの有する移転登記請求権を代位行使して、Cさんに対し、Bさんへの移転登記を請求することができます。
この場合の被保全権利は金銭債権ではなく、AさんのBさんに対する移転登記請求権です。

本来的な使い方と異なるこのような代位行使の方法は「転用型」と呼ばれ、「本来型」とは適用場面が異なるために要件も異なると考えられています(具体的には、債務者の無資力が要件とされない)。

判例では、移転登記請求権の代位行使が問題となった事案でしたが、改正民法の条文上は「登記又は登録」とされていますので、適用場面は判例より広いということができます。


というわけで、債権者代位権に関する改正は、判例の明文化がメインですが、色々と(大量に)条文が追加されており、微妙にルールも変更されていますので、注意が必要ですね。

では、今日はこの辺で。

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