2018年2月4日日曜日

債権法改正について(14)(受領遅滞)

司法書士の岡川です。

履行遅滞の話は一通り終わったので、今日は受領遅滞、すなわち、債務者が債務を履行してるのに債権者がこれの受領を遅滞する場合です。
うっかり遅れた場合だけでなく、明確に拒否したような場合も含まれます。

「履行遅滞」で責任を負うというのはわかるけど、「受領遅滞」ってのは何が問題なのか、なかなかピンと来ないかもしれませんが、世の中、色んな事情があるのです。

典型的には、取りに来いと言ってる(そういう契約になっている)のに取りに来ないとかですね。
かさばる物だと保管コストもかかります。
もし保管中に盗まれたりしたら誰が責任取るのか。
そういう問題が受領遅滞には生じます。

そこで民法では、受領遅滞があった場合は、「債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。」(現行民法413条)と定めています。

でもこの「責任」というのがどういう性質のもので、どういう内容のものなのかが、条文からはよくわからない。
実は、その効果(損害賠償義務を負うのか?解除ができるようになるのか?など)が現行民法には何も書かれてないんですよね。

そのため、受領遅滞の責任とは何ぞやというところで議論が分かれていたところです。

「債権者にも受領する義務があって、受領遅滞はその義務違反の債務不履行責任(?)なんだ」とか「いやいや債権者の義務違反ではなく、これは信義則から導かれる法律が特に定めた責任なんだ」とか。

性質の理解によって、そこから考えられる効果も異なってきます(債務不履行責任なら、債務不履行の場合と同じような効果が生じるはず)。

一般的に、判例・通説は、後者の見解(法定責任説)だと言われていますが、前者の見解(債務不履行説)も有力です。
基本的に法定責任説に立ちつつ、個別に受領義務を負う場合もあるという折衷説というか中間説というか、そういうのもあります(これは別個の説というより、法定責任説自体がそういう見解ということもできる。判例も同様)。


そんな中、改正法は、受領遅滞の法的性質論争に踏み込まず、具体的に受領遅滞の効果を定めています。

第413条 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないことによって、その履行の費用が増加したときは、その増加額は、債権者の負担とする。

第413条の2 債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。


ハッキリと法定責任だと書いてあるわけではないですが、損害賠償とか解除とかの効果が認められておりませんので、判例・通説・実務に従い法定責任説をベースに明文化された、という理解で良いでしょう。



とまあ、受領遅滞についてはこれくらいの話です。

では、今日はこの辺で。

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