司法書士の岡川です。
「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」が改正され、災害時の熟慮期間に関する民法の特例が新設されました。
災害時における相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例の制定について(法務省)
前提として、相続の流れについておさらいです。
人が死亡したとき、その人(被相続人)について相続が開始します(民法882条)。
ただ、相続は、被相続人の権利義務を包括的に相続人が受け継ぐ(これを「一般承継」とか「一般承継」といいます)制度ですが、被相続人が死亡した(相続が開始した)だけではこの承継の効果が生じません。
相続人が、相続を「承認」した場合に権利義務を承継することになります(民法920条)。
何の留保もせずにする承認を「単純承認」といい、少し特殊な限定的な承認を「限定承認」というのですが、一般的に行われているのは単純承認ですので、ひとまずここでは限定承認のことは除外して書きます。
被相続人の権利義務を承継したくないと思えば、逆に相続を「放棄」することもできます。
相続は、プラスの遺産もマイナスの遺産も包括的に引き継ぐことになりますので、マイナスの遺産(借金)の方がプラスの遺産より多いような場合は、相続を放棄するという選択肢があるのです。
ちなみに、相続承認は相手方のいない意思表示なのですが、相続放棄は勝手に宣言するだけではだめで、家庭裁判所に申述する必要があります(民法938条)。
そうすると、人が死亡したとき、相続人には「承認」するか「放棄」するかの選択肢が与えられているのですが、いつまでもダラダラと保留していると、権利関係が確定せず、周りに迷惑をかけてしまいます。
そこで、承認か放棄かの結論を出すまでには「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」という期間が定められています。
これを「熟慮期間」といいます。
相続人は、3か月の熟慮期間内に承認するか放棄するかの結論を出さなければなりません。
そして、もし結論を出さずに熟慮期間が経過してしまうと、「単純承認した」ものとみなされます(民法921条)。
これを法定単純承認といいます。
民法によれば、東日本大震災のような大規模な災害があった場合でも、原則として3か月で結論を出さなければいけません。
たとえ相続財産の範囲について調査をしているような状況になかったとしても、死亡が確認できた(相続が開始したことを知った)以上は、そこから3か月という熟慮期間は守らなければなりません。
そして、放棄したければ、何が何でも家庭裁判所に申述しなければなりません。
これはさすがに具合が悪すぎるので、東日本大震災のときは、「東日本大震災に伴う相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例に関する法律」という特例法が制定され、熟慮期間が伸長されました(既にこの期間は終わっています)。
このたび、今後も同様の災害が起こった時に対処できるような制度が用意されました。
それが、冒頭の法改正です。
これにより、大規模な災害が起こったとき、1年以内の期間を政令(内閣の命令)で定めて、熟慮期間を伸長することができるようになりました。
政令で定めればよいので、慌てて国会で特例法を成立させる必要がなくなったわけですね。
ただし、これは限定された場面の話ですので、原則として相続放棄をしたい人は「3か月以内に家庭裁判所に申述しなければならない」ということは覚えておきましょう。
では、今日はこの辺で。
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