集団的自衛権に関する政府解釈は、一貫して「行使できない」というものでしたが、安倍首相が政府解釈を変更し、「行使できる」としようとしています。
具体的には、「集団的自衛権は行使できる」という内容の閣議決定をすることになるのですが、これに対して「立憲主義の否定」であるという批判があらゆるところから噴出しております。
とりあえず、「集団的自衛権の行使が現行憲法上認められるか」とか「集団的自衛権は行使すべきか」とか「憲法は改正すべきか」といった政治的な話は全部抜きにして、今日は政府解釈と立憲主義の話に絞って書こうと思います。
安倍首相は先日「(政府の)最高責任者は私だ。政府答弁に私が責任を持って、その上で私たちは国民の審判を受ける。」と宣言しましたが、それはそれで間違ってはいません。
そもそも法解釈というのは(憲法解釈に限らず)、色んな人がいろんな立場で行うものです。
法解釈の主体は様々で、法学者であったり、当然、我々のような法律実務家が日々行うことでもあります。
そのうち、一定の権威(拘束力)を持っているのは、政府機関、すなわち、立法府(国会)・行政府(内閣)・司法府(裁判所)がする解釈です。
これらの機関による解釈を「有権解釈」とか「公権的解釈」といいます。
このうち、行政府の解釈を「行政解釈」といいますが、これは「政府解釈」ともいいます。
ここでいう「政府」とは、「行政府」の意味です(「政府」には、その他に三権を含めた国の統治機関全体の意味もあります)。
そして、行政府の責任者は、内閣の代表である内閣総理大臣ですから、政府解釈について、安倍首相が「私が最高責任者」というのは間違っていないわけですね。
「政府解釈」はあくまでも「行政府はこう考える」ということを意味します。
行政府が一定の解釈を打ち出せば、その解釈で全て行政が動きます(有権解釈)ので、これは極めて重要なものです。
しかし、最終的な法解釈というのは、司法府が決めることで、憲法に関する政府解釈(行政解釈)も、裁判所がこれを否定し、違憲判決を出せば覆すことができます。
ゆえに、裁判所(特に最高裁判所)は、「憲法の番人」と呼ばれるのです。
また一方で、いくら憲法に関する行政解釈が存在しても、拠るべき根拠法がなければ解釈を具体的に実現することはできません。
法律を作るのは立法府たる国会ですから、立法府の解釈(あまり一般的ではない用語ですが「立法解釈」ということもあります)として、「集団的自衛権は行使できない」ということであれば、国会は、「集団的自衛権を行使可能とする根拠法を成立させない」という形で、その解釈を打ち出すことができます。
実際に、閣議決定後、国会で自衛隊法の改正議論がなされることになっていますが、行政府がどう考えていようと、立法府は独自の解釈で立法することも可能です。
ということで、「政府解釈さえ自由にできれば、憲法なんか無視してやりたい放題」というものでもありません。
ところで、立憲主義とは、憲法によって国家権力を縛るという考え方です。
上記の三権分立の仕組み(特に、裁判所による違憲審査権)も国家の暴走を抑えるもので、行政府がどんなに荒唐無稽な憲法解釈を行ったところで、司法府がその解釈を否定することが期待されています。
そして、そもそも荒唐無稽な行政解釈を世に出す前に、行政府自身が自らを律する仕組みが、内閣法制局です(これは、憲法上の仕組みではありませんが)。
内閣法制局長官というのは、憲法上の地位を有する者でなく、対外的には何ら権限もないので、これを「憲法の番人」といって祭り上げるのはおかしいのですが(この辺は「憲法の番人?内閣法制局長官」を参照)、行政府の自主規制として、「立憲主義を守る一翼を担っている」とはいえるでしょう。
その意味で、あんまり軽々しく扱うのはよろしくない。
ただし、内閣法制局長官の見解が必ずしも「正しい憲法解釈」ではありませんので、内閣法制局長官の見解を無視したからといって、これが即「立憲主義の否定」ということにはなりませんし、内閣法制局長官の見解を追認することだけが唯一の立憲主義のあり方でもありません。
さて、それでは実際に安倍首相は「立憲主義を否定」したといえるでしょうか。
これは、そうとも言えるし、そうでないとも言える。
結局、安倍首相も言ったように、主権者(憲法制定権者)たる国民がよく考えて、審判を下すべきなのでしょうね。
そして、実際に法解釈論として集団的自衛権の行使が憲法違反なら、「憲法の番人」たる裁判所の判断に期待することになります(集団的自衛権の行使で負傷した人からの国賠訴訟とかになるのかなぁ)。
これは、最高裁の矜持にかかっていますね。
果たして、今後議論はどういう展開になるのでしょうか。
では、今日はこの辺で。
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