2014年4月15日火曜日

30年前の事故の損害賠償請求が認められた理由

司法書士の岡川です。

交通事故などの「不法行為」に基づく損害賠償請求権は、一定の期間行使しないことで消滅します。

一定の期間とは、ひとつは、損害を知ってから3年の消滅時効
もうひとつが、不法行為から20年の除斥期間です。

消滅時効と除斥期間の違いの説明はまた別の機会に譲るとして、とにかく、この期間を過ぎれば、損害賠償請求をすることができません。


さて、これを前提にして、30年前の事故に起因する後遺障害に対して、損害賠償請求が認められたというニュースです。

30年前の事故で1億6500万円の賠償命令 頭強打、成人後に障害判明(産経新聞)
事故は昭和58年6月に発生。東京都杉並区の国鉄高架橋の防護壁からブロックが崩れ落ち、乳母車に乗っていた男性の頭を直撃。男性は専門学校を卒業後、知的障害4級と認定された。当時は後遺障害との認識はなかったが、平成21年に病院の検査で高次脳機能障害と診断され、両親とともに機構を提訴した。
機構側は訴訟で、障害の原因が事故であることは争わず、損害賠償請求権は時効で消滅していると主張していた。
なぜ30年前の事故に起因する障害について、賠償請求が認められたのでしょうか。
産経新聞の記事を読んでみても、サッパリわかりません。

実際の判決文を見ていないから正確なところはわからないのですが、実は、読売新聞と時事通信の記事を併せ読むことで全貌が明らかになります。

まずは、時事通信
2006年に23歳で知的障害の認定を受けており、機構側は高次脳機能障害の診断以前に後遺症と認識できたとして、09年の提訴時点で時効(3年)が成立するなどと主張していた。
吉田徹裁判長は「高次脳機能障害の症状が表れるのは、知的障害よりも遅くなると考えられる」と述べ、機構側の主張を退けた。
というわけで、提訴したのは2009年ですが、損害(高次脳機能障害)を知ったのは「提訴の3年前(2006年)よりも前だったとはいえない」という認定のようです。
これで、まず3年の消滅時効の問題はクリアです。

そして、読売新聞
機構側は事故が障害の原因と認めたが、89年には障害が出ているとし、「20年の除斥期間が過ぎた後の提訴で、賠償請求権は消滅している」と主張。しかし、判決は「過去の健康診断などからは、89年の時点で障害が発症していたとは言えない」と指摘。
というわけで、提訴の20年前である1989年の時点では、まだ損害(高次脳機能障害)は発生していないと認定しています。
これで、20年の除斥期間の問題もクリアしたということです。

この2点は両方揃って初めて、この事件の判決内容が理解できるのですが、何でどのマスコミも同一記事内に両方書いてくれないんでしょう?

不親切ですね~。

では、今日はこの辺で。


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