2014年11月10日月曜日

危急時遺言

司法書士の岡川です。

タレントで歌手のやしきたかじん氏とその妻の壮絶な闘病を描いたノンフィクション作品「殉愛」(百田尚樹著)が話題になっています。
32歳年下で、やしきたかじん氏が亡くなる直前に結婚した妻は、週刊誌等で「遺産目当て」「悪女」などと強烈なバッシングを受けています。
これに対し、著者である百田氏は、そららは週刊誌等による「捏造」だと断じています。

本作は、ただの妻の手記ではなく、著者による取材に基づくものです。
メモ魔であったやしきたかじん氏が残した膨大なノートや、妻の看病日誌などの記録類の存在も大きいですが、友人、テレビ関係者、タレント仲間、病院関係者など、当時の状況を知る多くの人の実名での証言が紹介されており、それが妻の語った内容を裏付ける形になっています。

客観的事実はひとつしかないにしても、事実に対する評価は人それぞれですし、人によって違う捉え方ができるものです。
闘病中や死後に何があったのか、それをどう評価するかは、ぜひ本書を実際に読んでみるとよいでしょう。


さて、やしきたかじん氏は、死ぬ何日か前に、遺言を作成しています。

一般的な遺言の方式としては、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
少し特殊なものとして、秘密証書遺言というものもあります。

作中で、正式な遺言を作るには公証人が必要だと書かれていますが、全て遺言者が自書する自筆証書遺言も紛れもなく正式な遺言ですので、必ずしも公証人が関与しなくても構いません。


実は、さらに特殊な方式である「危急時遺言」というものがあり、やしきたかじん氏はこちらの方式を利用して遺言を作成したようなのです。

危急時遺言にも細かく分けるといくつかの種類がありますが、通常は一般の危急時遺言(死亡危急者遺言)という方式が利用されます(その他は、「伝染隔離者」とか「船舶遭難者」の方式なので、これはもう極めて特殊)。

「疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者」の遺言は、「証人3人以上」が立会い、遺言者が証人に遺言の趣旨を口授して、証人がそれを筆記して、証人全員が署名押印するというものです。

自筆証書遺言と違って、遺言者ではなく証人が署名押印するというのが特徴です。
そして、遺言の後20日以内に家庭裁判所に請求して確認を得なければなりません。
また、遺言から6か月生存したら、無効になります(死亡の危急に迫った人が用いる方式であるため)。

やしきたかじん氏の場合、証人3人とも弁護士であり、しかも遺言の前に医者の診断書を作成してもらっており、かつ、遺言作成の過程を録画していたようです。
また、利害関係を有する妻も部屋の外に出され、遺言作成に同席していません。
危急時遺言としては考え得る限り完璧な証拠保全がなされており、親族からの遺言無効確認の訴えは退けられたようです。


もっとも、本当に完璧を期すなら、危急時遺言が使えるような状況になるまえに、通常の方式での遺言(特に公正証書遺言)を作成しておくことを強くお勧めします。
やしきたかじん氏は、判断能力に問題が無く、その旨の医師の診断書も確保できていたので良かったのですが、皆がそう上手くいくとは限りません。

遺言は書き直すことは可能ですので、本当に遺言を残すべき人は、ギリギリに書くのではなく、元気なうちに書くよう心がけましょう。

では、今日はこの辺で。


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