2015年1月26日月曜日

「金を返さない」のは犯罪か?

司法書士の岡川です。

「貸したお金を返してくれない」というのは、よくある法律トラブルですね。
支払期限を過ぎても返さない(履行遅滞)というのは、民事上の「債務不履行」になります。

貸した相手が、病床に伏しているとか会社をリストラされて生活に困っているとかならまだしも、借金を返さないくせにパチンコ三昧だったり毎晩飲みあるいてたりすれば、何らかの制裁を加えたくもなります。

言うまでもないですが、人のお金を勝手に取ったら犯罪(窃盗)です。
これは小学生でも知っています。

では、借りたお金を約束の期限までに返さないのも犯罪でしょうか?


実はこれは、犯罪ではありません。

なぜか。
単純に、刑法に「そのような行為を犯罪とする規定がない」からです。

刑法に規定がなければ犯罪ではない。
これが罪刑法定主義という大原則です。


窃盗罪は、他人の物を窃取すると成立します。
「窃取」とは、他人の手元にある物を、自分の手元に移す行為をいいます。

車でも札束でも犬でも何でもいいですが、とにかく、客体となる「物」をアッチからコッチに移転させること。
これが「窃取」です。

では、「金を返さない」というのはどうでしょう。
返さないという行為によって、何か「物」が債権者から債務者に移転するわけではありませんね。
したがって、「窃取」という行為が無いので、窃盗罪は成立しません。


債務の履行を一時的にでも免れると(それが法的に免責されたわけでなく、事実上のものであっても)、債務者は「財産上の利益」を得ることになります。
他人から「財産上の利益」を(脅したり騙したりせずに)取得する行為を、講学上は「利益窃盗」と呼びますが、利益窃盗は犯罪ではないのです。

利益窃盗とされるものの中には悪質な場合もありますが、単純な債務不履行も含まれることになります。

債務不履行は、悪気が無くとも起きる(返したくても返せないことが多い)もので、民事上の債務不履行をことごとく犯罪(利益窃盗罪)として処罰しても抑止力にはならないし、結局債権者には何の得もないし、「犯罪者」とされる者を無駄に増やすだけであまり意味がありません。
民事上の債務不履行は、民事上の決着(強制執行するとか、話し合いで分割払いにするとか)をつけるべきなのです。


ただし、犯罪でないのは、「単純な債務不履行」の場合です。

債権者を脅したり騙したりして履行を免れると、これは「強盗利得罪」「恐喝利得罪」「詐欺利得罪」といった犯罪が成立します。
ただ単に「返さない」だけならまだしも、脅したり騙したりすることまでは見逃されないわけです。
逆にいえば、そういう悪質な手法を用いない場合は、犯罪者として処罰するのではなく、民事的に解決させようという形になっているわけです。


もちろん、繰り返しになりますが、債務不履行は民事上の制裁(損害賠償請求)なども待っていますので、「犯罪じゃないから問題ない」という話ではありませんので、お間違えなきよう。

では、今日はこの辺で。

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