2015年12月15日火曜日

共同申請の原則

司法書士の岡川です。

「謀殺」がどうとかいう記事で更新が止まっていては、さすがに物騒なので、たまには司法書士らしく登記の話でもしましょうかね。

テーマは不動産登記の基本中の基本である「共同申請の原則」について。

不動産登記のうち、権利に関する登記(所有権の移転や抵当権の設定等)は、「登記権利者」と「登記義務者」の共同申請によることが原則とされています(不動産登記法60条)。

これを、共同申請主義とか共同申請の原則とかいいます。

司法書士にとっては、あまりにも常識すぎる原則なのですが、法律に詳しくない一般の方だけでなく、法律の勉強をして登記について多少知っている人にとっても馴染みの薄いものかと思います。


「登記権利者」というのは、「登記をすることにより、登記上、直接に利益を受ける者」で、登記義務者というのは、「登記をすることにより、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人」をいいます。

具体例を挙げると、例えば、売買に基づく移転登記であれば、新しく登記名義人になる「買主」が登記権利者で、逆に、登記名義を失うことになる「売主」が登記義務者です。

つまり、売買に基づく移転登記の申請は、登記権利者である買主と登記義務者である売主が共同してしなければなりません。

「共同申請」といっても、婚姻届みたいに、二人で仲良く法務局に行って窓口に申請書を提出してもいいのですが、普通はそんなことはしません。

登記申請は書面(またはオンライン)で行うので、申請書(申請情報)の作成名義が共同になっていることを意味します。
つまり、共同申請というのは、「登記権利者と登記義務者が両者とも申請書や委任状に押印する」ということです。


売買だけでなく、贈与の場合も考え方は同じですね。

また、抵当権を設定する場合も、登記権利者である抵当権者(金を貸す側)と、登記義務者である抵当権設定者(不動産の所有者等)が共同して申請します。


さて、ここまでは、「契約当事者の両方が揃って登記の申請をしなければならない」ということですので、理解もしやすいでしょうが、登記の原因となるのは、契約だけではありません。


例えば、AとBの共有名義となっている不動産について、Bが共有持分を放棄するような場合です。

共有物の共有者は、いつでも勝手に(一方的に宣言するだけで)自分の持分を放棄することができ、共有者が放棄した場合、他の共有者にその権利が帰属します(民法255条)。

つまり、Bが持分を放棄すると、その不動産はAの単有になるのですが、実はこの場合の持分移転登記の申請も、AとBが共同でしければなりません。
持分放棄は一方的な意思表示なので、AとBの契約でも何でもないのですが、名義を書き換えるには共同でしないといけないのです。


他には、時効によって取得した場合。
他人の不動産を長期間占有していると、一定の要件を満たせば、時効によりその所有権を取得できることがあります。

時効取得は、別に元の所有者から所有権を譲り受けるわけではなく、法律の規定によって所有権を取得することになります(これを「原始的取得」といいます)。

この場合も、時効取得したからといって勝手に自分の名義に書き換えることができるわけではなく、元の名義人と共同して移転登記を申請しなければなりません。

契約のように、当事者間で譲り受けたわけではないにもかかわらず、登記申請は共同してしないといけないのです。
もし登記義務者である現在の名義人が登記申請に協力してくれなければ、訴える(移転登記請求訴訟)しかありません。

つまり、たとえ取得時効の要件を満たしていたとしても、元の所有者に協力してもらうか裁判に勝たなければ、実際に登記名義人になることができないのです。


登記は、自己の権利を公示するためのものなのだから、単純に、「新しい権利者が申請すればええやん」と思う人もいるかもしれません。

しかし、「登記名義を失う人」の利益を保護する(実際に権利を失っていないのに名義を失うことのないようにする)ために、原則的に登記義務者の関与が求められているのです。

よくできていますね。


では、今日はこの辺で。

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