司法書士の岡川です。
今日の記事はちょっと専門的な話にもなりますが、あんまり高度なことではありませんので、興味があれば読んでくださいね。
一昨年あたりから同業者の間で話題になっていたことですが、いわゆる「一人遺産分割協議」の問題があります(こちらの記事も参照→「華麗なる一人芝居」)。
例えば、Aさんが不動産を所有しているとします。
そして、Aさんの法定相続人は、その妻であるBと、ABの子であるCの二人だったとします。
Aさんが死亡しましたが、相続登記はしていませんでした。
そのうちに、Bさんも死亡しました。
CさんがA名義から直接C名義に相続登記をすることはできるでしょうか?という問題です。
このとき、Bが存命中にBC間で「Cが相続する」という内容の遺産分割協議が成立しており、遺産分割協議書も作成していたとすれば、それを添付して申請すれば、直接C名義に相続登記することは問題なさそうです。
ただ、BC間で遺産分割協議は成立していたとしても、「遺産分割協議書」の形で書類として残っていないという場合もあります。
この場合はどうでしょうか?
さらに、もしBC間で何も話し合いがなされていなかった場合はどうでしょう?
いずれの場合も、従前は、Cが書類を作成することでAからCへ直接相続登記をすることができました。
前者の場合、「BC間でCが取得するという内容の遺産分割がありました」という内容の「遺産分割協議証明書」をCが作成すればよい。
後者の場合、Cが一人で「Aの相続人C」と「Aの相続人であるBの相続人C」の立場で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書なり遺産分割決定書なり(タイトルは自由です)の書類を作成すればよいわけです(これが「一人遺産分割協議」です。)。
こういう登記は、法務局によっては以前から受理されないこともあったようですが、多くの法務局では受理されていたと思われます(私もやったことありますし)。
ところが、後者の事案(BC間で遺産分割協議がされていなかった場合)について、これを違法とする東京高裁の裁判例(東京高判平成26年9月30日)が出てしまいました。
その理屈は、遺産分割協議は相続人が複数存在する場合にしか観念できないので、相続人がCだけになってしまった段階では、もはや「遺産分割」ということはあり得ない、ということです。
となると、まずはBCの共有名義に相続登記をし、その次にBからCに持分の相続登記をしなきゃならんわけです。
実務を真っ向から否定する裁判例に対し、司法書士の間では、「東京高裁さん何してくれてんねん」という話になってたんですね。
司法の終局的な解釈である裁判例と、行政の解釈で運用される登記実務はしばしば食い違うことがありますが、この件に関しては、東京高裁判決が出た瞬間全国の法務局で、「一人遺産分割協議」に基づく相続登記申請は受理されない取り扱いが一般化しました。
運悪くそのタイミングで申請して審査中だった人なんかは、取下げしなければ申請却下を食らうハメに。
そして、このたび法務省の通達がありまして、「一人遺産分割協議」の事例については受理しないことで確定のようですが、「BC間で遺産分割協議が成立していたが、それを証明する書類が残っていない場合」については、Cが作成した遺産分割協議(があったことの)証明書を添付すれば登記可能ということになりました。
きちんと「あったこと」を証明しなければなりません。
実際にBC間で一切話し合いがなされていなければこの方法は使えませんので、まずBC共有名義への相続登記を経由する必要があります。
以後、この取り扱いで確定ということになりますね。
さて、ここで間違ってはいけないのは、これは、「相続を原因とする移転登記申請」の話だということ。
似ているようですが、「相続人が直接自己名義でする保存登記」は別の話です。
保存登記については、相続人が何人いようが、間に何回相続が行われていようが、遺産分割があろうがなかろうが、現在の相続人名義で直接登記をすることができます。
つまり、保存登記では、登記されるまでの権利変動の過程を逐一記録する必要がないということです。
先の例でいえば、そもそもA名義で登記がなされていなければ(建物を建てたまま未登記の場合等)、BC間の遺産分割の有無にかかわらず、CがAの唯一の相続人としてC名義の保存登記をすることができるわけです。
遺産分割の有無にかかわらず現在の相続人が直接登記申請人になれるわけですから、遺産分割協議の存否で結論が変わる東京高裁判決の射程外だということになります。
この判決が出た後に、相続人による保存登記を申請したところ、法務局から「遺産分割があったことの証明書」を出せ(出せないなら取り下げろ)と補正指示を受けたことがあります。
保存登記では、そもそも遺産分割がなくても問題ないのだからそんな書面必要ないと(参考資料を提出して)説明したら受理されました。
法務局でも混乱してた時期だったのかもしれません。
ちなみに、保存登記は現在の相続人から申請できるとする資料としては、登記研究407号85頁や登記研究443号93頁あたりを参考にどうぞ。
では、今日はこの辺で。
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