2016年6月1日水曜日

市民後見人はどうやって選任されるのか

司法書士の岡川です。

成年後見制度利用促進法が成立したこともあり、「市民後見人」が少し注目されています。

市民後見人は、親族後見人、専門職後見人に次ぐ、第三の選択肢として期待されているのですが、そもそも市民後見人とは何でしょうか。


親族が後見人等に就任した場合、親族後見人と呼ばれます。
そして、司法書士・弁護士・社会福祉士の三士業が後見人等に就任した場合、専門職後見人と呼ばれます。

じゃあ、それ以外が後見人等に就任した場合が全部市民後見人か、というとそういうわけではありません。


そもそも市民後見人というのは、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートが2005年に出した「成年後見制度改善に向けての提言」の中で提唱された概念です。

法律上の用語ではありませんので、厳密な定義があるわけではありませんが、一般的には、

「弁護士や司法書士などの資格はもたないものの社会貢献への意欲や倫理観が高い一般市民の中から、成年後見に関する一定の知識・態度を身に付けた良質の第三者後見人等」

のように定義されます。

ポイントとしては、

①専門資格はもたない一般市民であること
②社会貢献のためであるであること
②成年後見に関する一定の知識や態度を身に付けていること

といった条件を満たした場合をいうということです。

弁護士や司法書士「などの資格」はどこまでをいうかも厳密に決まっているわけではありませんが、最高裁判所の統計では、司法書士・弁護士・社会福祉士の三士業のほか、税理士・行政書士・精神保健福祉士を市民後見人から除いています。

つまり、親族以外の税理士が後見人等に就任しても、それは市民後見人からは除外されます。

次に社会貢献のためであるということ。
社会貢献のために、一般市民が、自分と交友関係にない方の後見人等に就任するのが市民後見人なのです。
専門資格がなく、親族でもないとしても、友情や義理のために知人の後見人等に就任する場合は市民後見人からは除かれます。

それから、一定の知識や態度を身に付けているという点。
具体的には、都道府県や市区町村が行う養成事業で定められた課程を修了していることが必要です。

その辺の暇な「一般市民」を連れてきて、後見人等に選任しても、それは市民後見人ではありません。

「その他の個人」というのが若干ですが統計に表れておりますので、一般の市民が後見人等に就任しても、上記のような条件を満たしていなければ、それは市民後見人ではありません(基本的には事実上の家族や知人だと思います)。


形式的には、市民後見人として養成され、市民後見人として登録されてる人が市民後見人だということもできますね。


さて、では市民後見人が選任されるまでの手続きはどうなっているのかが気になるところですね。
申立てするときに、市民後見人に頼んで候補者になってもらうのかというと、そうではありません。


市民後見人の養成、個別の事件への候補者推薦、就任後のサポートは、行政・裁判所・専門職(司法書士・弁護士・社会福祉士)が連携して行われています。

自治体ごとに制度設計がなされていますので、全国のすべての状況までは把握していませんが、一般的には、市民後見人の養成事業で研修課程を修了した人が、「○○市成年後見センター」のような市民後見人に関する事業の実施機関に登録されます(大阪では「市民後見人バンク」といいます)。

そして、裁判所に成年後見開始が申し立てられた事件のうち、適当な候補者がいない場合で、市民後見人を選任することが適当と考えられるものがあれば、裁判所から実施機関に推薦依頼がされます。
そこで、行政担当者、専門職(司法書士・弁護士・社会福祉士)、学識経験者らが事件を検討し、登録された候補者の中から適当な人物を推薦することになります。

裁判所は、推薦された市民後見人候補者が当該事案の後見人として適当であると判断すれば、後見人に選任します。

つまり、適当な候補者がいない事案(これは、候補者なしで申し立てられる場合もあれば、不適切な候補者を立てて申し立てられる場合もあります)について、裁判所は専門職団体(弁護士であれば弁護士会、司法書士であればリーガルサポート)に推薦依頼をする他、市民後見人の推薦依頼もできるということです。


市民後見人は、成年後見制度利用促進法の成立で初めて出てきたものではなく、既に稼働している制度なのですが、促進法の成立によってその利用が加速するかもしれませんね。

では、今日はこの辺で。

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