司法書士の岡川です。
日本弁護士連合会が、「依頼者保護給付金制度」を新設するようです。
これは、成年後見業務などで弁護士が依頼者から預かっている金銭等の横領事件が起きた場合に、被害者に対して見舞金を支払う制度です。
成年後見業務に限らず、弁護士が依頼者から預かったお金を着服する事件がいくつも発生していることを受けての対策です。
弁護士による不正が発生した場合、被害者1人につき最大500万円(複数の被害者がある場合総額2000万円を限度)を支給するとのことです。
このブログでも過去に何度か取り上げましたが、成年後見人による不正(基本的には横領)が後を絶ちません。
多くは親族によるものなのですが、中には、専門職といわれる司法書士・弁護士・社会福祉士による不正事件もあります。
そして、専門職の選任される比率が増加するにつれて専門職による不正も増加しています。
成年後見人による不正は、親族だろうが専門職だろうが絶対にあってはならないことではありますが、特に専門職は、その専門的知見とともに社会的信頼を背景に選任されるものです。
専門職による不正事件は、本人に対して財産的損害を与えるだけでなく、本人やその親族の信頼を裏切るものです。
そして、成年後見制度や当該専門職能に対する社会的信頼をも棄損することにもなり、きわめて悪質です。
専門職後見に対する刑事処分は、通常の横領事件などに比べても厳しい判決が下されることが多いように感じていますが、それは当然のことです。
専門職の業界としても、不正に対して手をこまねいているわけにはいきません。
司法書士会では、成年後見制度が創設されると同時に「公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート」(リーガルサポート)という専門の団体を設立し、ここが司法書士後見人の養成、指導、監督を引き受けています(家庭裁判所に後見人候補者を推薦するのもリーガルサポートが行っています)。
そして、実はリーガルサポートにも今回日弁連が新たに創設したような見舞金と同様の交付金制度が存在しています。
金額も含め、内容が似通っているので、日弁連も、おそらくリーガルサポートの交付金制度を参考にして作ったんだろうと思いますが、たまたま似たのかもしれません。
日弁連の新制度について、弁護士から徴収する会費が財源となります。
これに対しては、弁護士からも批判が出ているようです。
「なぜ一部の悪い弁護士のために自分たちの会費が使われるのか」という批判です。
リーガルサポートの交付金制度はリーガルサポート設立当初から存在(当初は保険だったのですが)しており、またリーガルサポートは、強制加入団体である司法書士会とは一応独立した任意入会の団体なので、「嫌なら入会しない」という選択肢があります。
しかし弁護士会は強制加入団体。
反発の声があったとしても仕方はないかもしれません。
まあ、最終的には承認されるのでしょうけどね。
また他方で、こういう制度は、「不正があること」を前提にした制度です。
そのため「不正をなくすことが先ではないか」「不正が起こることを認めるのか」という批判もあります。
不正を「許す」わけにはいきません。
しかし、横領に限らず「犯罪」というのは、減らすことはできても絶対に「根絶」することは不可能な現象です。
残念ながらそこは前提として認めなければならないと思います。
たとえどんな対策をとっていたとしても、なお不正があることを「想定外」で済ませるわけにはいきませんから。
「犯罪を根絶する」というのは、理想論や理念としては理解できるにしても、現実的な発想ではありません。
人類を絶滅させるか、あるいは、SF世界のように完全な管理社会にでもならない限り、犯罪は必ず存在するものです。
もちろん「専門職後見人による不正」だけであれば、対象が限定されているので、限りなくゼロに近付けることはできます。
そのためのあらゆる対策を考えて実施する必要があります。
専門職後見人の三士会(司法書士会・弁護士会・社会福祉士会)のうち、司法書士会を除く他の2団体の内部事情は良くわかりませんが、リーガルサポートでは、色々な不正対策が行われています。
司法書士が後見人等候補者名簿に登載するには、常に研修単位を取得し続けなければいけません。
また、後見人等に就任後はかなり厳しく(それこそ会員から不満が出るくらいの)業務報告を求められ、指導・監督が徹底して行われています(本当に会員から不満が出るくらいの…)。
仮に不正をすれば、刑事処分だけでなく懲戒処分も受け、二度と司法書士として復帰することはできないリスクを負っています。
それでも、対策さえしておけば「未来永劫絶対に不正は起こらない」というようなことは保証できないものです。
実際に、あの手この手で不正をする人間が出てきているわけです。
そうである以上は、不正を防ぎきれなかった場合の「次善の策」として、事後的な被害救済策も用意しておくことは重要であると考えられます。
もっとも、実際の被害額と比べて500万円では足りない事例も多々あるわけで、やはりあくまでも「次善の策」に過ぎないのですが…。
今後、この給付金が使われないことを願いたいところです。
では、今日はこの辺で。
0 件のコメント:
コメントを投稿