2016年9月1日木曜日

知らない間に被告になって敗訴していた事件の最高裁判決

司法書士の岡川です。

最高裁で珍しい判決が出たみたいです。
珍しいといっても、たぶん、そんなに珍しくないかもしれないけど、しょっちゅうあることではないという意味で。


「知らぬ間に被告」敗訴破棄=裁判やり直し命じる―最高裁

東京都内の夫婦が「裁判で被告となったことを全く知らないまま敗訴した」と訴えた損害賠償請求訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(桜井龍子裁判長)は1日、「訴訟に関与する機会が与えられなかった」と認め、夫婦に賠償を命じた一、二審判決を破棄し、審理を東京地裁に差し戻した。


この記事にはあまり詳しいことが書かれてないのですが、事案としては、「とある会社と、その会社の代表取締役・取締役が訴えられた」というよくあるお話。

訴えられたら訴状が被告(訴えられた側)に送達されるのですが、送達されなければ訴訟手続は有効に進みません。
訴訟は、被告に訴状が送達された段階で係属する(スタートラインに立つ)ことになります。

個人に対する送達は、自宅に送付するのが基本ですけども、自宅がわからない場合など、被告の「就業場所」に送達しても構いません。
なので、今回の訴状は、会社に対するものも、代表取締役や取締役に対するものも、全て会社に送達されたものと考えられます。

会社と代表取締役は、それで訴状を受けとったことになるのですが、問題は取締役のほう。
実は、この取締役は勝手に取締役として登記されていただけで、取締役として登記されていることすら知らなかった。
当然、その会社は就業場所でも何でもなかったんですね。

そのため、訴状は自宅にも届いてないし、就業場所にも届いてない(もちろん、その他の方法でも送達を受けていない)。
となると、この取締役との関係においては、適法に訴訟手続が進んだ(訴訟が係属した)とはいえないということになります。

しかも、その後の手続きも、代表取締役が取締役の分の委任状も偽造して弁護士に渡していたため、弁護士は、全員分の代理人として訴訟活動をしていたのですけど、当然それも無効ですね。

したがって、弁護士も代表取締役に騙された側ではあるのですが、取締役の本人確認もせずに(会ったこともない人の)代理人として訴訟活動していたということで、相応の処分が待っていると思われます。

怖い怖い。


というわけで、もう一度地裁からやり直せ、という話になったわけですね。


Yahoo!ニュースのコメント欄に色々と書かれているので、ちょっと正確な情報を提供しておきますね。

>裁判所が主導で原告被告に対してお互いに都合のよい日にちを聞いてきて裁判が進行したという経験しかないから逆になぜこうなるのか信じられない。


(偽造された)委任状が提出されてたので、弁護士が代理人として日程調整してたからだよ!


>裁判所前に公示はしてるんだろ、だったら問題ない。

裁判所前に公示なんかされないよ!
公示送達という特殊な場合を除けば、訴状は直接本人に送付されるんだ!
今回は、代表取締役が(取締役の分も)受け取ってたんだよ!


>裁判所の職員の仕事がいい加減なことは有名だ。

本件に限っていえば、裁判所の職員に落ち度はないよ!


>まず、委任状をねつ造した弁護士がだれか報道しろよ

違うよ!
委任状を捏造したのは代表取締役だよ!
弁護士も偽造の委任状で騙されたんだよ!
本人確認しなかった落ち度はあるけどね!


>委任状を偽造した犯人が存在しているということ?

犯人は代表取締役だよ!


>弁護士自身が詐欺罪,公文書偽造で有罪です。

色々違うよ!


>裁判がおかしいという内容の裁判が行われ、最高裁まで持ち込まれた。

そうじゃなくて、裁判の途中で(途中っていっても、最高裁まで行ってるんだけどね!)気づいたから、最初からやり直せって話になったんだよ!



このテンションでコメントするのが疲れてきたのでもういいかな?





ちなみに、これとは別に、送達受け取っても放置してしまうことに乗じた本物の詐欺の手口もあるので、注意しましょうね(→「支払督促や少額訴訟を利用した詐欺」)。


では、今日はこの辺で。

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