前回も紹介しましたが、民法の一部を改正する法律、いわゆる債権法改正(もう少し厳密にいうと「民法(債権関係)改正」)が成立しました。
3年以内に施行される予定です。
契約関係の基本的なルールである民法が変わるので、皆さんの生活にも大きな影響があるかもしれません(例えば、法学部の学生生活と法律系資格試験受験生の勉強生活への影響は計り知れない。その他の一般市民の生活への影響は、まぁ、そんなに・・・)。
このブログでも、何回かに分けて重要な改正について紹介&解説していこうと思います。
基本的には、条文を前から順番に追っていきますが、関連する事項はまとめて解説しますね。
というわけで、まず今日取り上げるのは第1編「総則」部分の改正です。
1.意思能力
まずは、意思能力に関する明文規定が置かれました。
第3条の2 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
「意思無能力者が行った契約は、当然に無効となる」ということを定めた条文が新設されたわけで、一見するとかなり重要な改正のようにも見えますが、意思無能力者の法律行為が無効なのは、完全に確立した判例であり、かつ、学説上も「そんなの条文に書いてない」といって反対するような見解も皆無なわけでして、実務上全く影響はない改正となっております。
みんなが当然のように認めてきた法理を、条文に書いただけのお話。
関連して、意思無能力者について、意思表示の受領能力がない(=意思無能力者に対して意思表示してもダメ)ことも98条の2で明確化されますが、これも同じことですね。
2.代理人の行為能力
実は、代理人が法律行為(代理行為)をするには、行為能力を有していなくても構いません(現行民法102条)。つまり、代理人が制限行為能力者であったとしても、そのことをもって代理行為を取り消すことはできないわけです。
制限行為能力者の行為を取り消すことができるのは、制限行為能力者の保護のためです。
代理行為の効果は代理権を与えた本人に帰属し、代理人には効果が帰属しませんから、取り消すことができなくても制限行為能力者に不利益はないからです。
むしろ、制限行為能力者に代理権を与えた人は、そこから生じうる不利益も覚悟すべきだといえます。
しかし、本人の責任において代理権を与えた場合(任意代理)と異なって、法定代理の場合(例えば成年後見人等)、必ずしも本人の意思によらずに(法律に基づいて)代理権が付与されます。
そこで、現行102条は、代理人が法定代理人の場合にも適用されるのか(法定代理人自身が制限行為能力者であった場合は、その代理行為を取り消すことが可能か)という点で学説も分かれており、適用されないとする見解も有力でした。
法定代理人が制限行為能力者であった場合(例えば、Aさん自身が成年被後見人でありながら、Bさんの成年後見人に就任することも可能なのです)、代理権の行使が無制限に認められると、本人の保護に欠けるからです。
改正法では、この辺を立法的に解決しています。
まず102条は、次のとおり規定が変わります。
第102条 制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。
それから、被保佐人が単独で有効にすることができない行為、すなわち、保佐人の同意を得なければならない(逆にいえば、保佐人に同意権及び取消権のある)行為として、次の類型が加わりました。
第13条第1項第10号 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること
このように、ある人の法定代理人が制限行為能力者であった場合、現行102条が適用されるような結論にはならないことが明確になりました。
すなわち、法定代理人自身が成年被後見人であったとすれば、法定代理人としての行為は取り消すことが可能であり、被保佐人であったとすれば、その人の保佐人の同意を得なければ代理権を行使できない(同意を得ずにした行為は取り消すことが可能)となります。
もちろん、現実問題としては、家庭裁判所はそんなややこしい状況は確実に避けるので、「成年後見人の成年後見人に選任」何ていう話は聞いたことがありませんが、理屈の上ではありえる話なのです。
・・・
あー、代理ぐらいまで一気に解説するつもりが、これだけで結構な分量になりましたね。
続きは次回に回しましょう(てか、このペースだとあと何回投稿することになるんだろうか・・・)。
では、今日はこの辺で。
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