改正法で時効に関する規定は大幅に変更されます。
前回紹介した「完成猶予」という概念もそうですが、消滅時効に関する規定も大幅に変わります。
改正の方向性としては、細かく分かれていた時効期間の規定がバッサリ削除されて一本化され、かなりシンプルな規律となります。
これで、短期消滅時効の存在を忘れて慌てる心配がなくなりますね。
まずは、一般的な原則が次のようにまとめられました。
第166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。
改正で実質的に変わったのは、1項1号の部分ですね。
「知った時から5年」という新たなルールができました。
その他は、基本的に現行法と同じです。
それから特則もいくつか残っています。
第167条 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1項第2号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは、「20年間」とする。
債務不履行によって生命または身体が侵害された場合については、時効期間が「権利を行使することができるときから20年」になります。
もっとも、166条1項1号は排除されませんので、「知った時から5年」ルールは適用されます。
なお、生命・身体侵害といっても、不法行為の場合は別に規定(改正法724条の2)がありますので、167条は主に安全配慮義務違反で傷害を負った場合等の債務不履行事件について適用のある規定ということになりますね。
ついでなので、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についても一緒に紹介しましょう。
第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
二 不法行為の時から20年間行使しないとき。
ほぼ現行法と同じことが書いてあるんですけども、「時効によって消滅する」というのが3年ルールにも20年ルールにもかかってくることが明確になったので、今まで「20年については消滅時効ではなく除斥期間」と解されていた判例が変更されることになった、ということのようです。
(「除斥期間」というのは、「時効じゃないから中断のルールが適用されない」とかいう制限があったので、批判も強かった)
まあ、現行法だって素直に文言を読めば20年も消滅時効だと書いてるわけで、それにもかかわらず除斥期間だと解釈されてきたのです。
とすれば、この改正法の書き方で「明確になった」と本当にいえるのか疑問なのですけど、まあ、そういう趣旨の改正らしい。
それから、人の生命又は身体を害する不法行為については、
第724条の2 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。
とあり、167条と足並みをそろえています(現行法より時効期間が長くなりました)。
定期金債権については、次のようになります。
第168条 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から10年間行使しないとき。
二 前号に規定する各債権を行使することができる時から20年間行使しないとき。
定期金債権の消滅時効はもともと第1回目の弁済期から20年と長期だったので、それに合わせて普通の債権が5年のところを10年、10年のところを20年にした感じです。
「確定判決から10年」のルールはそのまま維持されます(条文が169条に繰り上がりましたが)。
これら以外の規定については、1~3年の短期消滅時効の規定が全部削除されましたので、5年10年20年のルールに則って判断されます。
居酒屋談議でよくあった「飲み屋のツケは1年で時効」っていうアレが無くなります。
これからは、飲み屋のツケも5年間消滅しませんので注意しましょう。
ついでにいうと、商法から商事消滅時効の規定(商行為によって生じた債権の消滅時効は5年)も削除されますので、これも民法の規定に統一されます。
こんなところで、時効の話は終わりです。
次は、条文の順番でいうと質権と抵当権の話なのですが、ここは実質的に現行法と変更ないので、次はようやく債権編に突入します。
では、今日はこの辺で。
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