2018年4月7日土曜日

債権法改正について(17)(詐害行為取消権2)

司法書士の岡川です。

今日は詐害行為取消権の続きで、詐害行為取消権が成立する要件の特則を規定した424条の2~4をみていきます。
いずれも、今回の改正で新設された条文です。

これらの条文の追加には背景事情として破産法の存在があります。

破産法とは、文字通り破産手続について定めた法律であり、平成16年に制定(同時に、旧破産法は廃止)されました。

その中に詐害行為取消権と似た「否認権」という制度があります。
否認権は、破産者が破産債権者を害することを知ってした行為を否認(無効化)し、原状に復させるものですが、現行破産法では旧破産法よりも厳格な要件が定められるようになりました。

他方で、詐害行為取消権は明治時代から続く民法に規定された制度ですが、古くより判例は、比較的広範に詐害行為取消権を認めてきました。
それに対する批判ももちろんあったのですが、現行破産法の制定により、否認権とのアンバランスさが顕著になりました。

すなわち、破産状態という危機的状態において、債権者全体の利益のために行使される制度である否認権が、現行法では厳格な要件のもとに認められているのに対し、そこまで至っていない状況で、しかも個別の債権者が自己の債権の保全のために行使することが予定されている詐害行為取消権が、従来の判例法理に従えば、否認権よりも広く認められるという事態が生じていたのです。


これを解消するために、今回の債権法改正では、債権者取消権の要件として破産法における否認権と同じような要件が取り入れられています。
それが、特則部分です。
では、順番に見ていきます。


第424条の2 債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

詐害行為とは、債務者が無資力になるような行為なので、必ずしも無償で財産を処分する行為である必要はなく、対価を得ている場合であっても取消しの対象になり得ます。

判例は、相当の対価を得て処分した場合(平たくいうと、適切な価格で売却したような場合)も、詐害行為になりうる(現金化されると資産が散逸する危険があるため)としていましたが、本条では、無制限に取消しの対象にするのではなく、1~3号の要件をすべて満たした場合にのみ取消しが可能になると規定しています。

破産法161条1項に合わせた形です。


第424条の3 債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次項第一号において同じ。)の時に行われたものであること。
二 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
2 前項に規定する行為が、債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において、次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、債権者は、同項の規定にかかわらず、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が、債務者が支払不能になる前30日以内に行われたものであること。
二 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。

一部の債権者に弁済したり、担保権を設定する行為も詐害行為になるとするのが判例の立場です。
ただこれも無制限に認めるのは相当でないので、本条で要件を厳格化しています。
1項、2項とも、2号の「通謀して他の債権者を害する意図をもって行われた」という要件は判例が定立した要件の明文化ですが、1号の要件が破産法162条1項に合わせて新設されました。


第424条の4 債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、第424条に規定する要件に該当するときは、債権者は、前条第一項の規定にかかわらず、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、詐害行為取消請求をすることができる。

これは、424条の3の例外ですね。
代物弁済(金銭での弁済に代えて不動産などの現物で支払うこと)の場合、基本的には424条の3に当たるわけですが、例えば200万円の債務を消滅させるのに1000万円の不動産で代物弁済したような場合は、差額の800万円の部分については、424条の3に定める厳格な要件を満たさなくても、424条の本則に従って詐害行為取消請求ができる、というルールです。


だいぶ細かい話になりましたが、まだまだ詐害行為取消権の話が続きます。

債権法改正、ちょっと詐害行為取消権に力入れすぎじゃな~い?


では、今日はこの辺で。

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