2019年4月2日火曜日

債権法改正について(29)(債務引受)

司法書士の岡川です。

前回までに債権譲渡の話をしましたが、「債権が譲渡できるんなら、債務も譲渡できるんじゃね?」と思い至った方もいるでしょう。
そう、実は債務だって譲渡可能です。

といっても、債権は権利なので基本的にはもらってうれしいものですが、逆に債務は義務ですから、「債務を君に売ってあげよう」と言ったところで、普通は「いらんわ」ってなりますね。
私も他人の義務なんぞいらんよね。

なので、債権のほうは「譲渡」という「あげる側」からのルールですが、債務のほうは「もらう側」に主眼を置いて考えられます。

さらにいえば、元々の債務者が関与した「譲渡」の形である必要もなく、もらう側が「支払いは俺に任せろー(バリバリ)」と引き受けてくれさえすればよいわけです。
だから、どっちかというと、元々の債務者との関係というより、債権者と債務を引き受ける人(引受人)との関係が重要で、専ら「債務を引き受ける」という点に着目して考えれば足ります。
他人の債務を引き受けることを、「債務引受」といいます。

引受人が債務を引き受けた後も元々の債務者も引き続き債務を負う場合を「併存的債務引受(重畳的債務引受)」といい、完全に債務を移転させて元々の債務者は債務者でなくなる場合を「免責的債務引受」といいます。


さて、債務にも相手方(債権者)がいることですし、しかも相手は権利者ですから、やたらめったらホイホイ譲渡(引受け)されると困ります。
したがって、債務引受には、相手方(債権者)の権利を害さないためのルールが必要ですし、元々の債務者の利害調整も必要です。


にも拘らず、現行民法には債務引受に関する条文が1個もありません。

「債務の引受けがあったとき」という文言が(1か所だけ)出てきますが、「債務の引受け」とは何ぞやという内容は、一切言及されません。
民法の条文上は、債務引受に何のルールもないのです。
なので、全てが解釈に委ねられていました。


そのルールが債権法改正で全部条文に明記されることになりました。

ということで、改正といっても、債務引受のルールまるまる全部を、基本的には従前の解釈(判例)のとおり明文化したものなので、もう債権法の教科書全部読んでくださいといったレベルなんですね。
そんなの全部書き出すとキリがないので、従来の解釈と大きく異なる形になった(実質的に「改正」となった)部分をご紹介。


それが、「元々の債務者の意思に反して免責的債務引受をすることが可能か」という問題。
古い判例で、免責的債務引受は、元々の債務者の意思に反してすることはできないとされていました。

利害関係のない第三者が債務者の意思に反して勝手に債務を弁済してはいけないという規定(現行民法474条2項)と平仄を合わせた形の解釈です。

しかし、免責的債務引受をしても、元の債務者には何の不利益ももたらさない(他方、第三者弁済の場合は、求償関係が生じるので、元々の債務者にも影響があります)ですし、「併存的債務引受(債務者の意思に反しても可能)をしてから元の債務者の債務を免除」すれば同じことなので、あえてこれを禁止する解釈には批判もありました。

民法に明文化されるにあたっては、債務者の意思に反する免責的債務引受も可能という前提で、債権者と引受人との契約で免責的債務引受をした場合、債権者から債務者に通知することで効力を生じるというルールになりました(改正472条)。
債務者に知らせなければ二重払いの危険がありますから、そこはきちんと手当をしたうえで、それが債務者の意思に反するかどうかは問わないわけです。
念のため、元々の債務者に対する求償権も生じないことも明記されました(改正472条の3)。



その他にも細かいとこ見ていけば色々とあるのですが…省略。

では、今日はこの辺で。

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