2022年4月8日金曜日

成年年齢引き下げについての注意喚起

司法書士の岡川です。

民法の改正により、令和4年4月1日から成年年齢が引き下げられ、これまでは20歳で成年であったのが18歳で成年となりました。
つまり18歳と19歳の人が未成年者ではなくなったということです。


民法という私人間(「わたくし-にんげん」ではなく「しじん-かん」)の関係を定めている法律は、原則としてすべての人は独立した対等な主体として行動することが想定されています。
つまり、誰もが自分の判断(のみ)に従って契約等をすることができる一方で、その結果については自分で責任を負わなければなりません。



これには例外もいくつかあるのですが、そのひとつが「未成年者」に関する次の規定です。

(未成年者の法律行為)
第5条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。



ざっくりと書くと、「親が自由に使ってよいと許可した財産(小遣い等)の処分以外は、親の同意なく処分したり契約をしたりすることはできない」ということです。
もし同意なく契約した場合、「取り消すことができる」とされています。
取り消すということは、その契約等は無効(最初からなかったこと)になります。


何をするにしても親の同意を得なければならないということは、未成年者にとっては、自由を制限されて窮屈と感じられるかもしれません。

しかし一方で、自由が制限されているということは、その限りで自己の判断の結果にすら拘束されないということです。
親の同意を得ていない契約は、自分にとって不利だと判断すれば、未成年者というだけの理由により問答無用で取り消す(なかったことにする)ことができますから、これは未成年者にとっては強力な武器(というか防御手段)となります。


すなわち、単独で自由に契約ができないというルールは、社会経験も少なく、判断力が十分に備わっていない(したがって、社会的には弱者の立場にある)未成年者が、未熟なゆえに判断を誤ったことにより生じる不利益から保護する規定なのです。

決して、親が子の自由を奪って支配下に置くためのルールというわけではありません(したがって、民法には親による親権の濫用を防止する仕組みも同時に存在する)。


さて、今までは、20歳になった瞬間から「親の同意を得なくても単独で契約等ができる自由」を手に入れる一方で、「未成年者というだけの理由により問答無用で契約を取り消すことができる権利」を失うというルールになっていました。

成年年齢引き下げは、この強力な武器を失う時期が、2年早くなったことを意味します。

18歳というと、まだ高校生です。
高校を卒業するより前から、社会生活においては、普通の社会人と同様の判断を求められ、その判断に対する自己責任を負わされるわけです。


そうすると、若い人は、社会の仕組みを今までより早くから理解し、「自己の判断で」その危険を回避できるようにならなければならない。
自由を手に入れて喜んでばかりもいられないということですね。


世の中には「『詐欺まがい』だが詐欺ではない」ような悪質な契約は掃いて捨てるほどあふれかえっています。
いっそ詐欺ならまだマシなのです(詐欺による契約は取り消すことができる)。


そして、悪質な業者は、未成熟な若年層を狙ってくるものです。

今までは、18歳とか19歳とかを狙って不利な契約をさせても、後から無効になってしまうリスクがあったのですが、今の18歳、19歳にはそのリスク(悪質業者にとってのリスクです)はありません。

カモがネギ背負って鍋の中で待機しているようなもんです。


新成人の皆さんには、自分の身を守るために社会のルールを学んでいただきたいと思います。


では、今日はこの辺で。

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