2013年6月27日木曜日

過失責任の原則

司法書士の岡川です。
前回、私法の三大原則は「権利能力平等の原則」「所有権絶対の原則」「私的自治の原則」の3つであると紹介しました。
この「三大原則」は、別に何かの法律に明記されているわけではないので、この3つとは別の原則を三大原則としてカウントする論者もいます。
前回も出てきた「契約自由の原則」も、しばしば三大原則のひとつとして数えられます。
そして、三大原則に入れられることの多いもうひとつの原則が、「過失責任の原則」です。
過失責任の原則とは、人は、「自己の故意・過失による加害行為に対してのみ責任を負う」という原則です。
逆にいえば、故意も過失もない場合に、人はその結果について責任を負わないことを意味します。
したがって、他人の行為の結果について責任を負うことは無いし、各人に期待されている注意義務を果たしていれば、仮に悪い結果が生じたとしても、「結果責任」を負うことはありません。

ただ、この過失責任の原則は大幅に修正がされており、現代では、民法やその他の特別法に多くの例外規定があります。
修正の形としては、まず、過失の証明責任を加害者側に負わせる「中間責任」があります。
民法709条により、他者の過失により被害を受けた人は、損害賠償を請求することができます。
このとき、「加害者に過失があったこと」は、被害者が証明しなければなりません。
これを、「過失がなかったこと」を加害者に証明させ、その証明がなされない限り加害者は賠償責任を負う、というふうに証明責任を転換するのが「中間責任」というものです。
もうひとつが、そもそも加害者の過失の有無を問わずに責任を負わせる「無過失責任」というものです。

いずれも、原則よりも被害者側に有利な扱いが定められているわけですが、その背景には、2つの考え方が存在します。
まず、危険な物を取り扱う者は、それ相応の責任を負うべきだとする「危険責任」という考え方です。
原発事故の際に、事業者が無過失責任を負うのはその典型ですね。
もうひとつの考え方は、「報償責任」というもので、ある活動から利益を得ている者は、その活動から生じた損害についても責任を負うべきだ、とする考えです。

例えば交通事故では、自動車損害賠償保障法という法律により、無過失責任に近い中間責任が規定されており(自賠法3条)、被害者側が手厚く保護されています。
これも、逆にいえば自動車という危険な道具を使用する者に重い責任を負わせたものだといえます。

多くの例外が存在する過失責任の原則ですが、それでも原則は、「過失もないところに責任を問われない」ということはしっかりと押さえておかなければなりません。
では、今日はこの辺で。

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