2013年8月9日金曜日

成年後見の申立てにかかる費用

司法書士の岡川です。

こういう記事を見つけました。

成年後見制度を上手に使う

成年後見制度を紹介していただくのはとても素晴らしいことなのですが、費用に関して事実誤認ないし誤解を生む内容があるので、訂正と補足をします。

以下引用。
後見人制度を利用するためには、「申し立て人」が必要です。
問題は、誰がその言いだしっぺになるのか、ということです。
申し立て人は、後見人を選ぶまでの諸費用を払う義務があります。
一般的に司法書士さんに依頼した場合、20万円強の費用が必要。
それは申し立て人の負担になります。

申立人が誰になるか、というのは確かに問題でして、明らかに支援が必要なのに申立人になる人がいなくて困ることは珍しくありません。
申立人になることを躊躇する理由の一つとして、申立てにかかる費用の問題もあります。
しかし、「一般的に司法書士さんに依頼した場合、20万円強の費用が必要」というのは、正確ではありません。


申立てにかかる費用というのは、必ず必要な費用としては、
  • 交通費やら通信費やらの実費
  • 裁判所に納める印紙代やら切手代
  • 司法書士(又は弁護士)報酬
です。
そして、司法書士や弁護士の報酬は、法律で決まっていませんので一概には言えませんが、例えば私の場合、基本的な申立手続きの報酬(相談から申立てまで一切を含む)の基準は、10万円(+消費税)です(事案によって、前後しますが)。
地域性もあるでしょうが、私の周りで話を聞く限り、司法書士の報酬というのはだいたいその程度です。
もちろん20万円かかるような事件が無いともいえないので、「報酬20万は高い」と一概には申し上げられないのですが、少なくともそれは「一般的」な事例ではないでしょう。

そして、実費はせいぜい数千円(これも、申立人が遠隔地に住んでいる場合等、特殊な例は別)で、裁判所に納める諸費用も数千円です。
ということで、ここまで見てきたとおり司法書士に依頼する一般的な事例で絶対に必要な費用は「10万円強」だと思われます。


「20万円強」というのは、おそらく、ここに「鑑定費用」も含めた値段だと思われます。

後見に該当するかどうかが(診断書だけでは)はっきりしない場合に、専門の医者に鑑定を依頼します。
この鑑定にかかる費用が10万円程度かかることもあるのです。

しかし、次のような理由から、必ずしも鑑定費用を含めた「20万円強」が一般的に申立人が負担する額だとはいえません。
  • 家事事件手続法の規定では、後見・保佐類型の場合は、原則として鑑定が行わなれることになっているが、明らかに後見該当だと診断書や調査官の調査で判断できる場合は鑑定が省略される。
  • 実際の運用では、鑑定を行わない例は多く、鑑定を実施するのは1割程度である。
  • 鑑定をした場合も、鑑定費用は、大部分は5万円以下である。
  • 低額で鑑定を引き受けてくれる精神科医に診断書を書いてもらっていれば、5万円もかからない(場合によっては、無料で鑑定を引き受けてくれる医者もいる)。
  • 鑑定費用が必要な場合も、家庭裁判所に申し立てることにより、鑑定費用を本人(被後見人)の負担とすることも可能(つまり、申立人は鑑定費用を負担しない)。

このように、後見申立には「必ず20万円強かかる」というようなものではありません。
司法書士に依頼して「20万円強」かかるのは、色々な事情が重なった数%の事例ではないでしょうか(少なくとも、大阪ではそうです)。


ところで、ざっとネットを見てみると、弁護士さんは、基本報酬を20万円程度に設定していることが多いようですね。
(同じく、大阪弁護士会のアンケートでは、このような結果が出ています)

そうすると、「一般的に20万円強の費用が必要」なのは、「弁護士さんに依頼した場合」の話で、司法書士に依頼した場合は、一般的には10万円強で申立てができるということになります。
(繰り返しますが、「絶対に10万円強しかかからない」というようなものではなく、事案によっては20万円程度になることもありえます)


最後に付け加えておくと、「弁護士の方が高いから、きっとサービスもいいに違いない」とも考えられるかもしれませんが、一般論として、その可能性はありません(個別の弁護士や司法書士で、サービスに差があることは当然ですが)。
成年後見の申立てに関しては、司法書士も弁護士もやることはほぼ同じ(ハンコを押す場所が違うくらい・・・かな?)なので、「弁護士に頼む方が簡単」とか「司法書士に頼むほうが手間がかかる」といったことはありません。

逆に、「司法書士の方が安いから、司法書士にしよう」というように、安易に「費用面だけ」で司法書士を選ぶべきでもないと思います。
例えば、既に何百万円、何千万円の紛争に巻き込まれていて、後見人がつき次第裁判を行う・・・ような事案であれば、最初から弁護士に申立てから後見人就任まで頼んだほうがよいかもしれません。

その上で、我々司法書士は、成年後見制度の専門家であり、トップランナーでありますから、私は、弁護士以下の費用で弁護士以上のサービスを提供していると自負しています。

自負するのは自由ですよね。 


ついでにいうと、さらに費用が安いからという理由で、司法書士でも弁護士でもない者に申立手続きを依頼するのは、論外です。
無資格者が申立てに関与するのは、れっきとした犯罪です。
仮に何らかの資格者(税理士とか行政書士とか)であっても、司法書士・弁護士以外の資格は後見申立てと関係ありませんので注意しましょう。


というわけで、成年後見制度の利用を検討する方は、費用のことも含めて、一度、地元のリーガルサポートまで相談されることをお勧めします。(例によって宣伝)

では、今日はこの辺で。


成年後見シリーズ

第1回「成年後見制度入門
第2回「法定後見の類型
第3回「任意後見契約について
第4回「後見終了後の問題
第5回「後見人には誰がなるか?
第6回「成年後見制度を利用するには?
番外編「成年後見の申立てにかかる費用」 ←いまここ
番外編2「成年後見の申立てにかかる時間
(このほかにも、成年後見についての記事はありますので、右上の検索窓で検索してみてください) 

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