司法書士の岡川です。
ネットでたまたま見つけた誤情報を勝手に取り上げて勝手に訂正する、「ネット上の誤情報にツッコミを入れよう」のコーナー(不定期)です。
さて、皆さん日本銀行って知ってますか?
「銀行の銀行」「政府の銀行」などと呼ばれ、通貨の発行や管理をして、日本の金融政策を実行する、日本の中央銀行です。
その日本銀行ですが、「日本銀行は株式会社である」という説明が、ネット上にまことしやかに流れているようです。
古いものも含めていくつか記事を紹介すると、
・【お金の話】第2回:日本銀行は民間企業だった / しかも株式上場している(ロケットニュース24)
・日銀(日本銀行)は株式会社である(zeraniumのブログ)
・日本銀行は民間企業?(ざつたま)
「法人入門」でも説明したとおり、法人にはいろんな種類があります。
「株式会社」というのも数ある法人の種類のひとつであり、会社法という法律(又は個別の特別法)に基づいて設立される法人の一種です。
形式的にいえば、会社法(又は個別の特別法)に基づいて「株式会社として設立された法人」が株式会社なのであり、それ以外の法人は株式会社ではありません。
さらにいえば、株式会社は必ず商号中に「株式会社」の文字が入ってなければならず、逆に、株式会社以外の法人が株式会社を名乗ることは禁じられています(会社法6、7条)。
したがって、ぱっと見だけで判断するならば、その法人の名称中に「株式会社」が入っているかどうかをみれば、その法人が株式会社であるかどうかが判別できることになります。
少し実質的にみるならば、その法人から「株式」が発行されているかどうかで判断できます。
つまり、法人の構成員(社員)の資格が「株式」という単位で分割されている社団法人が株式会社であり、「株主」と呼ばれる構成員(社員)が存在すれば、株式会社ということができます。
さて、ここで日本銀行に目を向けると、日本銀行は「日本銀行法」という法律に基づいて設立される法人であり、これは「日本銀行」という種類の法人です。
法人の分類でいえば、「認可法人」にカテゴライズされます。
(ちなみに、「日本銀行という種類の法人」は、日本銀行しか存在しません。)
日本銀行が株式会社でない理由はいくらでも列挙できますが、例えば、
・日本銀行は、会社法に基づいて設立されるわけでもなく、日本銀行法の中で、特に「日本銀行は株式会社とする」という規定もない。
・日本銀行の名称中「株式会社」の文字が入っていない
・日本銀行は株式を発行しておらず、したがって構成員たる株主が存在しない。
この3点を指摘しておけば、株式会社である要件を満たしていないことが分かります。
「でも、『日銀株』が上場されているよ?」という疑問を持たれるかもしれませんが、日銀株というのは、株式ではなく、日本銀行の「出資証券」という有価証券です。
俗に「株」といわれていますが、株式会社の株式とは関係ありません(同じように取引されるだけです)。
したがって、出資証券の所有者は株主ではありません。
「出資証券とよばれる株式」というふうな認識も間違いです。
出資証券は、それ自体が出資証券という有価証券であって、株式(株券)の一種というわけでもないのです。
ついでにいうと、出資証券を取得しても日銀の経営に関与できないのは、政府が55%持っているからではなくて、そもそも、出資証券の所有者は、ただ出資をしているだけの存在だからです。
どんなに金を出そうが、最初から何ら口出しをする立場にないのです。
株主が、株式会社の出資者であるのと同時に、株式会社の構成員(社員)でもあるのとは異なりますね。
というわけで、「日本銀行は株式会社である」というのは、間違いですので、気をつけましょう。
では、今日はこの辺で。
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