2013年12月12日木曜日

いろんな「時効」

司法書士の岡川です。

「時効」というのは、一般的にもよく知られた法律用語のひとつだと思います。
その意味するところもなんとなく、「一定の時間が経過したら、何らかの効果が生じる制度」くらいには理解されていることでしょう。
その理解で、概ね間違っていないのですが、勿論、法律で定められた時効制度は漠然としたものではなく、もう少し詳細に決められています。


一口に「時効」といっても、大きく分けて、刑事法上のものと民事法上のものがあります。

さらに、刑事法上の時効には「刑の時効」と「公訴時効」があり、民事法上の時効には「取得時効」と「消滅時効」があります。
(→参照「民事と刑事」)

まずは、刑事法上の時効。
「刑事」なので、犯罪に関わる時効ですね。

1.刑の時効

刑の言渡しが確定してから一定期間の経過しても刑が執行されない場合に、刑の執行を免れる制度です。
これは、刑法31条以下に規定されています。

被告人として裁判にかけられていても、刑が確定するまでは犯罪者ではないので、その段階では牢屋に捕まっているわけではありません。
したがって、刑の言渡しがあったとしても、その人の身柄を確保できていない場合もあるのです。
刑の言渡しを受けた者が、所在不明になったりして、刑法に定められた期間、刑を執行されなかったら、その後は執行することができなくなります。

この制度は、犯罪の「時効」として一般的に知られている制度(何年間逃げれば、もう起訴されなくなるというやつ)とは違い、起訴されて、刑も確定した後の話です。
あまり馴染みのない制度ですが、どうやら年間数件はあるみたいですね。

2.公訴時効

犯罪について、「時効」といえば、一般的には公訴時効を指します。
これは、犯罪が行われてから、一定の期間が経過すれば、公訴を提起(起訴)することができなくなるという制度で、刑法ではなく刑事訴訟法に規定されています。

犯罪者は、起訴されて刑事訴訟法上の手続きを経た後でなければ処罰されませんから、起訴できないということは、無罪放免とほぼ同義です。
もっとも、公訴時効完成後に出頭してきた人に対して、民事上の損害賠償請求が認められることもあります。
また、現行刑事訴訟法では、死刑に相当する罪などには公訴時効が存在しませんので、殺人犯はいくら逃げても時効が完成することはありません。


次に、民事法上の時効です。
こちらは、犯罪ではなくて、私法上の法律関係に関する時効です。

3.取得時効

取得時効とは、文字通り、時効完成により物を取得することができる制度です。
民法162条以下に規定されています。

他人の物を一定期間占有したらそれが自分の物になるという、何ともお得な制度ですね。
まあ、元の所有者からすれば、損する制度なんですけど。

もちろん、他人の物を勝手に盗んできたような場合や、借りた物をいつまでも返さない場合(いわゆる借りパク)は、いくら占有し続けても時効は完成しません。
他人の物を占有するに至った経緯が、客観的に自分の物として占有し始めたといえるような状況でなければいけないのです。
例えば、物を借りたのではなく貰った場合ですね。

「貰ったんなら時効とか関係ないじゃん」と思われるかもしれませんが、例えば、何十年も経ってから「あげた覚えはない。返せ」と言われた場合を考えてください。
貰った側としては、時効だろうが贈与だろうが、とにかく自分に所有権があるといえればいいわけですから、「貰った」という証明ができなくても「時効」を証明すれば済むということになります。

4.消滅時効

取得時効とは、取得時効とは逆に、一定期間の経過により、自分の権利が消滅してしまうという制度です。
民法166条以下に規定されています。

権利者からすれば損するのですが、義務者からすれば、義務を免れるので、とってもお得な制度です。

基本的には、10年で時効と考えていただければいいのですが、権利によっては20年という長期の経過で完成することもあり、逆に1年で時効にかかるものもあります。



どの制度も、「時間の経過によって何らかの効果が生じる」という点で共通します。
しかし、細かい要件はいろいろあるので、「とにかく長い時間が経てばよい」というものでもありません。

損しないためにも、時効については、正しく理解しておきましょう。
というわけで、時効についてあと何回か続きます。

では、今日はこの辺で。

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