2014年5月1日木曜日

「裁判」の意味

司法書士の岡川です。

突然ですが皆さん、「裁判」って何か知ってますか?

「裁判くらい小学生でも知ってるわ!」と思った方、本当に「裁判」の意味を正確に答えることができるでしょうか。
あまりにも普通に使われる「裁判」という言葉ですが、意外と正確な意味は知らないかもしれません。

「ほらあの裁判所で弁護士とか裁判官がやってるアレが裁判でしょ」とか思った方も多いのではありませんか?
しかし、厳密にいうとアレは裁判ではありません。

実は、裁判というのは、「裁判所や裁判官が具体的事件についてする公権的な判断」のことをいいます。
すなわち、例えば、弁護士とか裁判官がわーわーやった後で、最終的に「懲役10年に処する」とか「被告人は無罪」とか「被告は原告に対し金100万円を支払え」とかいう「判決」が裁判なのです。

多くの方が思い浮かべた「裁判所で弁護士とか裁判官がやってるアレ」は、裁判手続であって裁判そのものではありません。

日本の裁判には、主に3種類の形式があります。
それが、「判決」と「決定」と「命令」です。

「判決」とは、原則として法廷での口頭弁論を経たうえで裁判所がする裁判のことをいいます。
刑事訴訟では有罪・無罪を決めたり、民事訴訟では最終的な結論を決める等、重要な判断で用いられる裁判形式なので、裁判をするまでに最も厳密な手続きが必要となっています。

「決定」とは、判決と同じく裁判所がする裁判ですが、口頭弁論を経なくてもなしうるものをいいます。
訴訟手続における判決よりも簡易迅速な手続きで、訴訟手続での付随的な判断であったり、保全手続における判断で用いられる裁判です。

「命令」とは、「裁判所」ではなく、裁判長等の裁判官がする裁判です。
決定よりもさらに簡易な裁判です。


これらの区分は、法律上の規定(「判決でしなければならない裁判」とか「決定ですることができる裁判」などが決まっています)や、その実体(主体は裁判所か裁判官か、口頭弁論が必要か任意か)によって決まるものです。
したがって、「その種の裁判がどう呼ばれているか」等とは関係ありません。

例えば、民事訴訟における「担保提供命令」は、裁判所がする裁判であり、裁判形式としては命令ではなく「決定」です。
民事執行における「差押命令」や「転付命令」も「決定」ですし、民事保全における「仮差押命令」や「仮処分命令」といった「保全命令」も、「決定」です。
刑事訴訟における「損害賠償命令」も、「決定」です。
また、民事裁判のニュースなどで「損害賠償命令」とかいわれていても、それは全て「判決」です。


これらのほかに、家事事件手続法上は「審判」という形式の判断が存在します。
これはちょっと特殊で、「審判は裁判なのか」というのは少し争いがあります。
まあ、基本的には裁判の一種と考えてよいのですが、性質上「裁判」とはいえないようなものも含まれています。

(なお、「審判」という語も多義的なので、これはこれでまた後日→「審判」いろいろ


以上が形式的な意味での「裁判」なのですが、裁判をもっと実質的に捉えて、判断主体を司法機関に限らず、具体的な紛争について第三者がする公権的な判断を裁判と呼ぶこともあります。
この意味での「裁判」は、基本的には講学上の概念ではありますが、実定法上も、日本国憲法の76条2項は、「行政機関は、終審として裁判を行ふことができない」と規定していますし、55条は「両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。」と規定しています。
ここでの「裁判」は実質的意義での裁判といえますね。


ちなみに、一般に「民事裁判」とか「刑事裁判」とか呼ばれている「法廷でやってるアレ」は、主に「訴訟」という裁判手続です。
なので、あの手続の正式な名称は「民事訴訟」や「刑事訴訟」です。

アレを「裁判」といわずに「訴訟」というようになったら、「お、こいつ分かってるな」と思われるかもしれません。
思われないかもしれません。


では、今日はこの辺で。

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