2014年9月19日金曜日

過失相殺

司法書士の岡川です。

前回の記事で軽く紹介したとおり、「過失」というのは、不注意とか結果回避義務違反のことをいいます。

過失は、程度によって軽過失と重過失があり、民法上は重過失のみに適用される(軽過失では該当しない)規定とか、刑法上は、重過失の場合には軽過失の場合より重い犯罪が成立する場合(重過失致死傷罪)というのもあります。


ただ、民法における不法行為の要件は「故意又は過失」であり、規定の上では、重過失だろうが軽過失だろうが違いはありません(故意ですら扱いに差がないのですから当然ですね)。

刑法は違反者に対する制裁を目的とした法律なので、軽過失より重過失の方が重く処罰される場合がありますが、民法の不法行為の規定は、損害の賠償を目的としたものなので、軽過失でも損害が大きければそれなりの賠償をしないといけないし、重過失でも損害がなければ賠償の必要がないわけです。


ところで、民法には、刑法にない規定があります。
それが「過失相殺」というものです。

「過失相殺」は、「かしつそうさい」と読みます。

「相殺」を「そうさつ」などと読んではいけません。
「あいさつ」でもありません。


それはさておき、過失相殺とは、他人に損害を与えたときに被害者側にも過失があった場合、賠償額を算定する際に一定額(被害者側の過失分)を差し引くという制度です。

例えば交通事故の場合、衝突したときに被害者も動いていたような場合、被害者側にも何らかの過失があることが少なくありません。
その場合、加害者側の過失と被害者側の過失を比較して、どちらにどれくらいの過失があったか(過失割合)に応じて、損害賠償額が減額されます。
逆に、止まっている被害者に加害者が一方的に追突したような場合は、被害者の過失割合はゼロ(過失相殺なし)ということが多いでしょう。

例えば事故で100万円の損害を与えたとすれば、被害者の過失割合が3割と認定されると、損害賠償額は単純計算で70万円になるということです。

これは、民法の不法行為制度が「損害の公平な分担」という機能をもつものであるから、被害者にも過失があるなら、その分は被害者にも負担させるのが公平だという考えが背景にあります。


刑法にはこのような規定はありません。
被害者に過失があろうがなかろうが、加害者は、過失によって他人を死傷する行為はすべきではなく、そのような行為を刑法は抑止しなければならないからです。
よって、被害者の過失は考慮されずに犯罪が成立することになります。
もちろん、違法性の程度に差はあるでしょうし、それが量刑に反映される可能性はあります。


なお、交通事故で「両方動いているなら過失割合10:0はあり得ない」と誤解している方もいますが、必ずしもそうではなく、被害者が動いていたからといって必ず過失相殺されるわけではありません。

「被害者も動いていたのだから当然賠償額は減額される」とは考えないようにしましょう。


では、今日はこの辺で。

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