2014年12月8日月曜日

著作者人格権とは何か

司法書士の岡川です。

歌手の沢田知可子さんが、ヒット曲「会いたい」の作詞を手掛けた作詞家の沢ちひろさんから「著作者人格権」の侵害で訴えられたようです。

「著作者人格権」という、あまり見慣れない権利が出てきました。
著作権とは違うのでしょうか。


著作物を創作した人(著作者)には、2種類の権利が原始的に帰属します。
一般的に知られている「著作権」は、著作物に関する財産権としての性質をもつ権利であり、「著作財産権」とも呼ばれます。
厳密にいうと「著作権」という権利があるわけでなく、複製権とか翻案権とかの個別の権利(これを支分権といいます)の総称が著作権なのですが、とにかく著作物を色んな方法で独占的に利用する権利を有しています。

そしてもうひとつ、著作物の創作者には、その著作物に関する人格的利益についても権利が認められており、これを「著作者人格権」といいます。
こちらも、いくつかの権利の総称です。

著作者人格権に含まれる権利としては、次のようなものがあります。

1.公表権

まだ公表されていない著作物を公表する(公衆に提供し、又は提示する)権利です。
逆にいえば、「他人に勝手に公表されない」という権利です。
著作物を、世に出すか出さないか、どのタイミングで出すかは、著作者が決めるべきことであって、勝手に他人が公表することは公表権の侵害となります。
公表権侵害行為は、同時に著作権(著作財産権)も侵害することが通常ですが、人格権侵害という面も評価される(損害賠償請求の場合など)ことになります。

2.氏名表示権

著作物を公衆へ提供したり提示したりする場合に、著作者の氏名を表示する、又は表示しない権利です。
逆にいえば、「勝手に無名のまま公表されない」「匿名で公表したいのに勝手に氏名を記載されない」「他人の名前で公表されない」という権利です。
著作物を世に出す場合は、著作者と関連付けて公表されることで満足が得られる場合も多いでしょうし、逆に、著作者を知られたくないという場合もあるでしょう。
その選択権は全て著作者にあるということです。

3.同一性保持権

「著作物及びその題号の同一性を保持する権利」であって、「意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けない」という権利です。
著作物を他人が利用する場合は、基本的には「そのまま」利用しなければならないのです(著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変などは認められています)。
著作者に意に反して改変することは、同一性保持権の侵害となりますが、どの程度改変すれば同一性保持権の侵害となるのか、というのは微妙な問題でもあります。
著作物をアレンジした場合等に同一性保持権侵害がしばしば問題となり、森進一の「おふくろさん騒動」でも問題となったのは同一性保持権でした。
今回の「会いたい」の問題も同一性保持権が問題となっているものと思われます。


その他に、著作者人格権の侵害とみなされる行為として、「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」があります(113条6項)。


著作者人格権は、著作権(著作財産権)と違って一身専属性があり、譲渡することも相続することもできません。
では「放棄」することができるか、というのも問題になりますが、実務上は「著作者人格権を行使しない」との不行使特約が付されることがあります。

著作者人格権を侵害する行為に対しては、不法行為として損害賠償請求ができるほか、差止請求や名誉回復措置の請求ができ、罰則(5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金)もありますので、侵害行為をした者が犯罪者として処罰されることもあり得ます(ただし、親告罪ですので著作者の告訴が必要)。


他人の著作物を利用するときは、著作者の経済的利益だけではなく、人格的利益も尊重しなければなりません。
あまりやりすぎてしまうと、訴えられることがありますので気を付けましょう。

では、今日はこの辺で。


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