2015年4月16日木曜日

「債務名義」の話

司法書士の岡川です。

おそらく聞き慣れない(見慣れない)単語だと思いますが、今日は、民事手続で重要な概念である「債務名義」について書こうと思います。

近代的な法治国家である日本では、正当な権利を有しているからといって、私人が勝手に実力で権利を実現させることは許されません。
例えば、貸したお金を返してもらえないからといって、相手の財布を奪って勝手にお金を抜いたら犯罪となります。
これを、自力救済禁止の原則といいます。


実力行使が禁止されているなら、私たちはどうやって権利を実現すればよいかというと、最も典型的には裁判所に訴えを提起することです。

もちろん、裁判所に訴えたら裁判官がイキナリ相手の財布に手を突っ込んでお金を奪い返してくれるわけではなく、裁判所では双方の主張と証拠に基づいて審理が行われます。
審理が終われば、裁判所が最終的な判断としての判決を言い渡すことになります。

つまり、裁判に勝てば、裁判所から「金払え」という「判決」をもらうことができます。


金を貸した側としては、「判決」ではなく「お金」が欲しいのですが、裁判所はお金をくれません。
くれるのは、「判決正本」という紙きれだけです。


お金がほしいときに、紙きれなんぞ貰って何が嬉しいかというと、この紙きれは、ただの紙切れではないからです。
これは、「実力行使をしても良い」という「裁判所のお墨付き」なのです(もちろん、判決が確定しないといけませんが)。

安っぽい紙に印刷されてますけど、これが非常に強い効力を有する紙きれなのです。
葵の葉っぱのイラストが入った薬箱(黄色い服のお爺さんがよく持ってるやつ)なんかよりよっぽど強力です。


裁判所のお墨付きさえもらえれば、合法的に実力行使をすることができます。

もちろん、「実力行使」といっても、そこは法治国家ですから、何をやってもいいわけではなく、一定の法律上の手続(強制執行手続)に基づいて行う必要があります。
そういう「法律に基づいて」という当然の制限はありますが、とにかく「実力行使」が可能になるので、強制的に相手の銀行口座から預金を引き出したり相手の家を売り払ったりして、そこから債権を回収することができます。


このように、公的機関(基本的には裁判所)が発行する「実力行使しても良い」というお墨付きのことを「債務名義」といいます。

典型的なのが判決ですが、判決のほかに、裁判上の和解が成立したときに作成される「和解調書」や、調停が成立した時に作成される「調停調書」なんかも債務名義の一種です。
つまり、個人的に作った「和解契約書」ではなく、裁判所で作ってもらった「和解調書」を持っていれば、相手が約束を破れば、それに基づいて強制執行を行うことも可能だということです。

裁判所が作成するもののほか、公証人が作成する「執行証書」という債務名義もあります。


任意に約束を守ってもらえなければ実力行使しかありませんから、合法的にそれを行おうとすれば、何らかの債務名義が必要です。
その債務名義をとる手続が裁判手続なのです。

では、今日はこの辺で。

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