2015年4月9日木曜日

小学生がボール遊びをしていたらバイクが転倒して親が5000万円請求された事件

司法書士の岡川です。

もうだいぶ前のニュースなのですが、2004年にこんな事故がありました。

当時小学生だった男性が学校のグラウンドでサッカーをしていたところ、ゴールに向かって蹴ったボールが道路に飛び出し、そこに通りかかったバイクがボールを避けようとして転倒し、運転していた男性が死亡した、というものです。

この事件で、2011年に大阪地裁で、男性の両親に対する約1500万円(請求額は約5000万円)の損害賠償請求を認める判決が出て話題になりました。

人が1人亡くなっていることを考えれば、金額的には決して高い賠償額ではありませんが、

  • 校庭にはサッカーのゴールがあり、男性はゴールに向かってボールを蹴っただけであること(特に危険な遊び方をしていたわけではない)
  • バイクで転倒して死亡した男性が、当時87歳という高齢であったこと(むしろその年齢でバイクに乗っていた被害者側の過失が大きいのではないか)
  • 死亡の直接の原因は、事故後発症した認知症による誤嚥性肺炎であり、事故から1年以上経過していたこと(因果関係がないのではないか)
  • 損害賠償を命じられたのが男性の両親であったこと(この状況で両親が責任を負うのは酷ではないか)

などの理由により、結論に批判が出ていました。

当然ながら、男性の両親としては納得できるものではなく、控訴されたのですが、第二審の大阪高裁でも、賠償額は約1100万円に減額されたものの、結論的には両親の賠償責任が認められました。

自分の子供がサッカーゴールに向かってボールを蹴ったら、バイクに乗った老人が肺炎で死亡する・・・なんてことを予見できるはずもなく、端から見ててもなかなか理不尽な結論です。


小学5年生くらいの子は、他人に損害賠償を与えても、責任能力がないために損害賠償責任を負いません(712条)。
ただ、それだと被害者は「やられ損」になってしまって被害者に酷であるため、民法は、被害者救済のために、子を監督する義務を負う親権者等に特別な賠償責任を課しています(714条)。

この監督義務者責任は、どんな場合も常に負うわけではなく(それだと逆に監督義務者に酷な結果となります)、「監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったとき」は、免責されることになっています。

この辺の監督義務者責任については過去にも何度か書いていますので、そちらも参照してください。

参照1→「子の自転車事故で、賠償金は母親が支払うのか?
参照2→「未成年後見人の損害賠償責任
参照3→「自己責任の原則


事件は上告され、最高裁の判断が待たれることになりました。

で、その上告審の結論が出たようです。

最高裁判所は、二審判決を破棄し、両親に対する損害賠償請求を棄却する判決を言い渡しました。

破棄自判というやつですね。

正確にはどう判示したのかは判決文を見ないとわかりませんが、報道によると「両親は日頃から通常のしつけをしており、サッカーのような通常、人に危険が及ぶとはみられない行為については特別の事情が認められない限り監督責任を負わない」という趣旨の判決であったようです。


(追記)判決の原文は次の通りです。
 「親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ないから,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。」


まあ、当然といえば当然ではあります。
監督義務者だからといって何でもかんでも損害賠償を認めていれば、714条但書で親の責任に制限をかけた意味がなくなってしまいます。


事故によって認知症を発症することも無いことではないですし、認知症の方が誤嚥することもありえますし、そこから肺炎になるのもおかしくはないですし、高齢者の誤嚥性肺炎は死亡の危険が高い。


被害者遺族側からみれば、男性の行為が(かなり遠いとはいえ)死亡の原因のひとつとなっているわけですし、男性に責任能力が(当時)なかったのであれば両親に責任を問いたいという気持ちもわかります。
ただ、この事件は、さすがに両親の責任を問うのは酷であった思います。


本筋とは少し外れますが、やはり、高齢者の運転というのは非常に危険が高い行為です。
加害者となることもあれば、今回のようにちょっとしたことで死亡事故の被害者となる可能性もあります。

高齢者の交通事故は増えています。
皆さんのご両親や祖父母も事故に巻き込まれないよう、気を付けてくださいね。

では、今日はこの辺で。

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