司法書士の岡川です。
小学6年生の男子児童が大麻を吸引して警察に事情聴取されたという驚きのニュースがありました。
しかも、その児童の兄である17歳の高校生が所持していた物を吸引したというのだから、さらに驚愕です。
大麻は、「大麻取締法」という法律によって、その取扱いが規制されています。
そこでは、大麻の所持や譲渡・譲受等が犯罪として禁止されておりますので、この兄が同法違反で逮捕されたようです。
では、発端となった男子児童の罪はどうか。
色んな意味で罪に問われることはなさそうです。
まず、大麻取締法は、大麻の吸引(使用)を禁止する規定はありません。
つまり、大麻の吸引は違法ではないのです。
麻薬や覚せい剤と違って、大麻だけ使用を禁止されていない理由は色々あるようですが、一般的にいわれている説明は次のようなものです。
すなわち、そもそも大麻草は古来より普通に栽培され、利用されていた植物で、かつ、現在でも自生している上に、麻の実などで食用として使われています。
そのため、たとえ体内から成分が検出されたとしても、規制された部位を吸引などで濫用したのか、そうでない(取締対象になっていない部位を食べたり、大麻草が自生している場所を野焼きした際の煙を吸引したり)のかの区別がつかないという理由のようです。
わかったようなわからないような理由づけですが、少なくとも立法の経緯としてはそういう理由があるらしいです。
とはいえ、所持や譲受が禁止されていますので、普通は吸引してるなら所持罪で捕まるわけですが、本件のように「兄の部屋にあったのを勝手に吸った」となれば、譲り受けてもいませんし、所持もしていませんね。
なので、何も法律に違反する行為をしていないことになるわけです(吸引だけであれば)。
さらに、小学6年生といえば、11歳か12歳です。
14歳未満の少年については、刑事責任を問われません。
刑法41条に「14歳に満たない者の行為は、罰しない。」という規定があるからです(14歳未満を「刑事未成年」ということもあるのですが、私はこの表現があまり好きではありません)。
つまり、仮に男子児童が嘘をついていて、本当は兄ではなく自分が大麻を所持していたとしても、14歳未満なので犯罪は成立しないことになります。
ということで、この男子児童には(法律上)何の罪もないことになります。
悪いのは全部兄。
とはいえ、ここで考慮しないといけないのは大麻取締法や刑法だけでなく、少年法。
少年法で対象になっている「非行少年」とは、必ずしも「罪を犯した少年」(犯罪少年)に限られませんでした(参照→「少年法が対象とする少年」)。
本件の男子児童は、14歳未満なので「犯罪少年」ではなく、仮に大麻を所持していた等の事情があれば「触法少年」になり、そうでなくても、「虞犯少年」となる可能性があります。
犯罪少年は、原則としてすべて家庭裁判所に送致される(全件送致主義)のですが、今回は犯罪少年ではないので、そのルートではありません。
非行少年を発見した警察官は、原則的には家庭裁判所に通告することになるのですが、虞犯少年の場合、それよりも「児童福祉法 による措置にゆだねるのが適当であると認めるとき」は、家庭裁判所ではなく、児童相談所に通告するというルートがあります(少年法6条2項)。
その後は、児童福祉法に基づく措置がとられることになります。
ちなみに、兄の方は「犯罪少年」ですので、こちらはこちらで、少年保護事件として扱われることになります。
ここでみてきたとおり、大麻はいわゆる「違法薬物」のひとつではありますが、今この男子児童(と、場合によってはその兄も)に必要なのは、刑罰ではなく、教育と矯正ということになります。
では、今日はこの辺で。
こちらの記事も参照→大麻の法規制
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