2015年11月21日土曜日

訴える相手の住所がわからない場合

司法書士の岡川です。

訴えの相手方(被告)が意図的に訴状を受け取らないとどうなるか、という話を以前書きました。
結論的には、実際に相手がそこに住んでいることが間違いないのであれば、訴状を受け取らなくても、「受け取ったことにする」という制度があります(付郵便送達)。

ただ、そもそも「被告がどこに住んでいるかわからない」場合も、やはり訴状を送達することができませんし、この場合は書留郵便で送ることもできません。

本当に最初からどこの誰か分からない人物を相手に訴えを提起することは難しい(その場合も、方法が無いこともないのですが)としても、どこの誰だかは分かっているが、いつの間にか居場所が分からなくなってしまったということもあります。

例えば、夜逃げしてしまった賃借人に対する建物明渡請求をする場合どうするんだ、という話ですね。


このような場合も、基本的には原告の側で調査をしなければなりません。
例えば、相手の住民票を取るとか、知っている最後の住所地の状況を確認する等です。
現地調査としては、近所の人に聴き取りをしたり、外観を写真に撮ったり、郵便受けを調べたり、ドアポストから中を覗いたり、各種メーターの動きを見たり、と、色々と不審人物…もとい探偵みたいなことをやりますので、結構大変です。


このように、きちんと調査してもなお送達先が分からない場合は、「公示送達」という方法があります。
調査報告書をつけて申立てをして、裁判所書記官が認めてくれれば、公示送達をしてくれます。


「公示」というのは、広く一般に示すことをいいます。
つまり「公示送達」とは、裁判所の掲示板(裁判所の廊下とかにあります)に貼り出す方法により送達することをいいます。

もちろん、訴状をそのまま掲示板に貼るわけにはいきませんので、「裁判所で訴状を預かってるから取りに来い」という内容の書面が貼り出されます。

そして、掲示板に貼り出して2週間経っても被告が取りに来なければ(まあ、普通は取りに来ることは無いんですけど)、それで送達したことになります。
訴状を送達したことになれば、その後は普通に審理が開始されます。


公示送達で訴状が送達された場合、被告の反論の機会を奪うことになるので、「擬制自白」が成立しないことになっています。
擬制自白とは、「相手が反論しなければ、こちらの主張を認めた(自白した)ことになる」という制度でしたね。

しかし、きちんと原告側で証拠をそろえて立証ができていれば、相手の擬制自白が成立しなくても請求が認められることになります。
証拠をそろえて訴えを提起していれば、即日結審して、勝訴判決が出ることになるでしょう。

しかもこの場合、裁判官は正式な「判決書」を作成せず、調書に判決内容を記載して判決を言い渡すことになります。
これを調書判決といいます。
調書判決も、効果は普通の判決書と同じです。


このように、公示送達が終われば、後の手続きはチャッチャと終わるのですが、公示送達にするまでが現地調査等で時間がかかります。


公示送達による裁判は、ほぼ確実に欠席裁判になるので、和解の余地はありません。

もっとも、「とにかく判決さえとれば後は何とかなる」ような場合(例えば登記請求訴訟とか明渡請求訴訟とか)や、「とりあえず先に判決だけは取っておきたい」ような場合には使える制度です。

こういう制度もあるので、相手の居場所が分からなくても諦めないでくださいね。


(>実務家のみなさん)公示送達については、『建物明渡事件の実務と書式〔第2版〕』の257頁以下参照ですよ!(宣伝)


では、今日はこの辺で。

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