2016年4月4日月曜日

司法書士と「行政」の関わり

司法書士の岡川です。

司法書士というのは、文字通り「司法」に関わる資格です、というのは前回書いたとおりです。
もう少し詳しくいうと、司法機関である裁判所での手続を専門とする資格です。

司法機関に提出する書類を作成するから、「司法」書士という名前なのですね。



とはいうものの、司法書士の業務を定めた司法書士法3条1項には、まず「登記又は供託に関する手続について代理すること。」が1号に掲げられています。
登記供託は、裁判所ではなく法務局という官庁で行われる手続きです。

さらに2号と3号も法務局の手続き(法務局提出書類の作成や、登記・供託に関する審査請求手続)となっています。

では法務局というのは、司法機関かというとそうではなく、法務省の地方支分部局です。
地方支分部局というのは、中央省庁の地方組織で、例えば国税庁における国税局とか、国土交通省における地方運輸局がこれに当たります。

法務省というのは、いうまでもなく行政機関ですから、法務局も行政機関です。
つまり法務局が所管している登記や供託も行政手続ということになります。


そして、最初に書いたとおり、司法書士の業務として真っ先に上げられるのは登記業務であり、現実的にも司法書士の受任する事件の大部分を登記業務が占めています。

つまり、「司法」書士といいながら、実は行政手続のほうがメインの資格だったりします。

まあ私個人の仕事の割合でいうと、どっちかというと裁判所絡みの書類の方が多いのですが、司法書士業界全体でいうと、圧倒的に法務局での手続きが多いです。


何でこういうことになっているかを理解するには少し歴史を紐解く必要があります。

まず、戦前に裁判所構成法という法律がありまして、登記手続は、区裁判所という裁判所の所管事務だったのです(裁判所構成法15条)。
つまり、もともと司法書士の登記業務は、裁判所に提出する書類の作成業務として確立されてたのですね。

それから供託ですが、供託制度ができた当初は大蔵省(今の財務省)管轄でしたが、大正10年の改正により司法省(現在の法務省)の下部組織である「供託局」に移管されました。
「供託局」は、戦後に「司法事務局」に改組されて、登記事務も裁判所から司法事務局に移管されます。

その司法省が最終的には法務省になり、司法事務局も最終的に現在の法務局になりました。


こういう官庁の再編がなされた後の昭和25年、司法書士法が全面改正されて「裁判所、検察庁又は法務局若しくは地方法務局に提出する書類を代つて作成する」ことを業とすると定められました。

全面改正当時は、まだ「法務局」より「裁判所」の方が前に書かれていたようですね。


ここでもうひとつ、あまり目立たないですが司法書士法には「検察庁」というのも出てきます。
検察庁に提出する書類の作成も、司法書士の業務です(現行司法書士法3条1項4号でも、「裁判所」と「検察庁」が並列されています)。
例えば、告訴状とか告発状の作成というのが検察庁に提出する書類ですね。


検察庁は、皆さんご存知の通り、犯罪者(の疑いがある人)を起訴する検察官が所属しており、刑事司法手続の一翼を担っている役所ですが、これまた裁判所ではなく法務省の下部組織です。

つまり、検察庁は、司法機関ではなく行政機関です。
となると、厳密にいえば「検察庁に提出する書類の作成」というのも行政に対する手続だということになりますね。


こちらも歴史的背景があるのですが、法務局の方とはちょっと違います。
実は旧司法書士法(大正8年に司法代書人法として制定)の時点で既に「裁判所及検事局ニ提出スヘキ書類ノ作製」という規定になっていまして、検事局というのが今の検察庁にあたります。

当時の検事局というのは、裁判所の下部組織ではないものの裁判所に「附置」されているという、何とも微妙な立場にありました(裁判所構成法6条)。
その辺の事情が、司法書士法の規定にも影響したのでしょうね。


そんな具合で、「司法」書士といっても、行政官庁に提出する書類の作成もしているのです、というお話でした。

では、今日はこの辺で。

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