2016年6月10日金曜日

「相続財産管理人」にも色々ある

司法書士の岡川です。

事務所のホームページの方で「相続人がいないとき」というページを更新したんですけど、あまり細かい情報を書くスペースもなかったので、ブログの方で書きますね。

「相続財産管理人」というと、一般的には、(ホームページのほうに書いたような)相続人不存在の場合に民法952条に基づいて選任される管理人を指すことが多いと思います。
相続人不存在の場合は、相続財産法人の代表として管理人が必置であり、これらはセットで考えられます。


しかし、実は「相続財産管理人」が選任されるのは、相続人不存在の場合だけじゃありません。

1.民法918条2項の相続財産管理人

相続が開始したとき、遺産分割協議をして最終的な相続財産の帰属が確定するまで、相続人は、相続財産を管理しなければいけません。
この場合において、適切な管理ができないこともありますので、家庭裁判所は、利害関係人(や検察官)からの申立てに基づき、「相続財産の保存に必要な処分」をすることができます(民法918条2項)。
この「必要な処分」の中に相続財産の管理人選任という処分も含まれます。

これによって選任された者も「相続財産管理人」といいます(区別するために、「918条2項の相続財産管理人」とか言ったりします)。

例えば、成年後見人が財産を管理していたところ、本人が亡くなったという場面。

相続人が不存在であれば、相続人不存在の場合の手続きに則って、民法952条に基づいて相続財産管理人が選任されます。

相続人がいて、その人が協力的であれば、何の問題もありません。
しかし、相続人がいることはわかっているけど、引継ぎに応じてくれない。
これ、珍しくないんですよね。

そういう場合は、成年後見人(であった人)が、利害関係人として918条2項の相続財産管理人選任を申し立てて、管理人が選任されたらその人に財産を引き継げば、後見人の任務は終了します。

一般的に、相続承認するまでの熟慮期間中に申立てができる制度であると考えられていますが(若干争いあり)、918条2項は、相続人が限定承認したときや相続放棄をしたときにも準用されています(後述)。

2.民法936条1項の相続財産管理人

他にもあります。

相続人が限定承認した場合で、相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、「相続人の中から、相続財産の管理人を選任しなければならない。」とされています(民法936条)。
これも、「相続財産管理人」です。

936条1項の相続財産管理人の場合、952条や918条と違い、相続人の中の誰かを管理人として選任するものです。
したがって、第三者(弁護士や司法書士等の専門職)から相続財産管理人が選任されることはありません。
もっとも、前述のとおり、限定承認の場合も918条2項が準用されていますので、必要であれば、926条が準用する918条2項に基づく「相続財産の保存に必要な処分」として918条2項の相続財産管理人を選任すれば、第三者が選任されることもありますね。

うーん、ややこしい。

3.民法943条1項の相続財産管理人

さらに、民法943条には、「財産分離の請求があったときは、家庭裁判所は、相続財産の管理について必要な処分を命ずることができる。」とあり、やはり「必要な処分」に相続財産管理人の選任が含まれます。
といっても、財産分離の制度なんて実務上ほとんど利用されることがなく、したがって943条の相続財産管理人にお目にかかる機会はまずないと思われます。

4.民法895条1項の遺産管理人

どんどんややこしくなりますが、民法895条には、次のような規定があります。

「推定相続人の廃除又はその取消しの請求があった後その審判が確定する前に相続が開始したときは、家庭裁判所は、親族、利害関係人又は検察官の請求によって、遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。推定相続人の廃除の遺言があったときも、同様とする。」

条文の文言の通りなのですが、推定相続人の廃除の審判が確定する前や、遺言によって廃除されていた場合、家庭裁判所は「遺産の管理について必要な処分」を命ずることができます。
例によって、この「必要な処分」の中に管理人の選任がありまして、これによって選任された管理人は「遺産管理人」といいます。

普通、「相続財産」と「遺産」は、ほぼ同じ意味で使われていますけども、この場面では条文上明確に使い分けられておりますので、管理人のことも相続財産管理人ではなくて「遺産管理人」といいます。

5.家事事件手続法200条1項の管理者

ではここで、民法という狭い枠を抜け出してみますと、家事事件手続法にこういう条文もあります。

「家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、財産の管理のため必要があるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てさせないで、遺産の分割の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、財産の管理に関する事項を指示することができる。」

ということで、遺産分割調停を申し立てた場合では、家庭裁判所が「財産の管理者」を選任することができます(200条3項)。
この管理者が一般的に何と呼ばれているのか、以前ちょっと調べてみたことがあるんですが、どこにも書いてなくて諦めました。
たぶん「遺産管理者」とか「相続財産管理者」とでもいうのでしょう。

6.任意相続財産管理人

さらには、法律という枠組みも抜け出してしまいましょう。

財産の管理は、必ず全部自分でやらなければならないというものではありません。

契約によって第三者に財産の管理を委任することも可能です。
そうすると相続財産の管理を委任することも可能です。

法律がわざわざ制度を用意しているのは、相続人間で争いがあったり、限定承認とか廃除とかややこしいことになっている場合だけですが、そうでなくても、相続財産を管理してもらって相続手続を任せたいという需要は結構あります。
そういう場合は、契約によって第三者に委任して相続財産管理人になってもらえばよいのです。
これも「相続財産管理人」です。
法定の(法律に規定によって家庭裁判所が選任する)ものではなく、当事者の契約で任意に選任するものなので「任意相続財産管理人」ということもありますね。


「相続財産」や「遺産」の「管理人」や「管理者」の類型は、だいたいこんなもんだと思います。

それぞれ根拠条文の違う(一部準用関係にあるものはありますが)別の制度ですので、名称が同じ「相続財産管理人」だからといって、全部ごっちゃにして考えると大混乱に陥ります。
注意してくださいね。

では、今日はこの辺で。

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