司法書士の岡川です。
本日、成年被後見人は選挙権を有しないとする公職選挙法の規定を削除する改正法が全会一致で成立し、成年被後見人にも選挙権が回復しました。
歓迎する声がある一方、「事理弁識能力を欠く成年被後見人が適切な投票行動をとることができるのか」「不正につながるのではないか」といった類の批判や不安もあるようです。
そういった批判を「偏見」だとか「差別」だとか言って切って捨てることも可能でしょうが、感覚的にそういった疑問が生じること自体は理解できます。
ただ、その批判は必ずしも当を得たものではありません。
というのも、成年後見というのは、申立てに基づき開始するものであって、判断能力の不十分な人が自動的に成年被後見人になるというものではありません。
つまり、もし後見開始の申立をされたら確実に後見が開始されるような人であっても、申立てがされない限り、成年被後見人にはなりません。
そして、改正前の公職選挙法において、そういう人たちは、成年被後見人ではないから選挙権を有していたのです。
実際に、成年後見を申立て可能な人であっても、選挙権を失うことを嫌って、申立てをしないということもあります。
したがって、判断能力が同等の人であっても、一方は後見開始を申し立てたから選挙権を失い、他方は、後見開始を申立て無かったから選挙権を有している、という事態が生じていました。
つまり、被後見人か否かで線引きすることは、あまり合理的ではないのです。
また、成年被後見人の判断能力についても幅があり、ほぼコミュニケーションが取れないような人から、ある程度は自分で物事を判断できる(ただし、財産管理は自分では不可能)ような人まで様々です。
後見開始の審判は、専ら財産管理に支援が必要か否かという点で認定されますから、その結果を、選挙権の有無に直結させることが可能とはいえないわけです。
不正防止については、いろいろと知恵を絞る必要はあると思いますが、今回の法改正は、一部で疑問が呈されているような不当なものではない、といってよいと思います。
では、今日はこの辺で。
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