司法書士の岡川です。
「法の不知は害する」という言葉をご存知でしょうか。
これは、有名な法格言のひとつで、簡単にいえば「『そんな法律知らなかった』は通用しない」ということを表したものです。
何か犯罪に該当する行為をした人が「それが犯罪だと知らなかった」で許されるなら、法律の意味がありません。
もし本当に知らなかったとしても、それは、知らなかったのが悪いので、知らなかったという点は考慮されずにその人は処罰されることになります。
他方で、「事実の不知」に関しては、法は比較的寛容です。
例えば、他人の財布を自分のものだと思って持って帰ったとしても、犯罪は成立しません(気づいた時点で返せば、です)。
故意がないからです。
「他人の財布を盗むと犯罪になるとは知らなかった」は通用しませんが、「それが他人の財布だとは知らなかった」は通用するわけですね。
もちろん、「事実の不知」についても、それが実際に裁判になって立証できればの話です。
なぜ故意がなければ(原則として)犯罪が成立しないのか(参照→「故意犯処罰の原則」)。
説明の仕方は色々ありますが、例えば、法律(刑法)が犯罪行為を抑止するためのものだと考えれば、それは、そもそも「他人の財布」だと知っている人に対してしか「他人の財布を盗むな」というルールを守らせる効果はありません。
「他人の財布」だと知らない人をいくら処罰しても、また次に「他人の財布」だと知らない人が同じことをすることを防ぐことはできません(なぜなら、「他人の財布を盗む」ということをしている認識はないから)。
そういう、何の予防にも役立たない場面に犯罪を成立させることはできない、というわけですね。
この点、「法の不知」に関しては、「処罰されたくなければ、法を知っておけ」という話です。
社会は法に基づいて動いているわけですから、法を知っている人を基準にするのが理に適っているわけですね。
法律を学ぶのは、何かそれで「得するため」ではありません。
法律とは、「損をしないため」に学ぶものです。
「法の不知」で損をしないよう、皆さん“正しい”法律知識を身につけましょう。
では、今日はこの辺で。
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