2013年6月20日木曜日

ごみ屋敷の問題

司法書士の岡川です。

昨日の「個人の生き方には基本的に口出しできない」という話に関連しますが、いわゆる「ゴミ屋敷」というものは非常にやっかいですね。

大阪市:ごみ屋敷条例提案へ…強制撤去も可能に(毎日新聞)
大阪市は19日、住居の内外にごみをため込む「ごみ屋敷」について、市が撤去費用を負担したり、住人が指導に従わない場合に強制撤去したりすることなどを定めた条例案の骨子を公表した。
(中略)
条例案では、立ち入り調査や撤去を勧告できる権限を市に与え、住人が従わない場合、弁護士や医師で作る審査会の意見に基づき、行政代執行で強制撤去できるようにする。
ある物が「ゴミ」なのか「財産」なのかは、その物に価値があるかどうかの違いです。

そして、物の価値というのは(少なくとも日本においては)相対的なものであり、誰かが絶対的に「これは何円」と決めてくれるようなものではありません。
AKB4ナントカの握手券だろうが、ナントカ世紀エヴァンゲリオンのキャラクターのフィギュアだろうが、興味のない人にとってはただのガラクタであっても、持ち主にとっては宝物ということはよくあります。

人が何に価値を見出すかは、その人の価値観の問題なので、やはりそれに他人が(特に国家が)口出しできるものではありません。
なので、何かを絶対的に「それはゴミ」と決めつけるのはなかなか難しいのです。

これを突き詰めていくと、客観的に(世間一般の価値観に照らし合わせて)ゴミに埋もれたとしか見えない「ゴミ屋敷」も、当人にとっては、「え?うちにはゴミなんかないですけど?」ということがあり得るわけですね(まあ、本当にゴミを片付けられなくてゴミ屋敷になるパターンもありますが)。


「ゴミ屋敷」が当人の家の中だけの問題にとどまっているのであれば、特に問題ありません。
しかし、悪臭や害虫等の衛生上の問題、火災の危険などは、近隣住民に影響を与えるものですし、ゴミが家の外に出ているのであれば、通行の邪魔になります。
そうなると、「個人の生き方の問題」では済まなくなります。


ところが、勝手に近隣住民がゴミを撤去するわけにはいきません。
たとえどんなに迷惑なゴミ屋敷だとしても、勝手に人の家に入って行って、中の物を撤去することは許されません。
他人に何かを強制する(あるいは、他人に対して実力行使をする)には、必ず司法手続を経なければならないとされています。
もしかしたら、本当に「ゴミではない」かもしれないし、近隣住民の思い込みかもしれない。
なので、司法機関(裁判所)にまず判断を仰がなければならないとうのが、法治国家の原則なのです
これを「自力救済の禁止」といいます。

そうすると、例えば、近隣住民が妨害予防請求とか妨害排除請求訴訟を起こす、そしてさらに強制執行手続を経れば合法的にゴミを撤去できます。
費用は、何十万、何百万かかるかわかりませんが、金があるならやってやれないことはない。

が、近隣住民としては、なんでそんなことせなあかんの?って話ですよね。

もちろん、法律の建前上、費用は相手に請求できるんですけど、相手が無資力なら実際上は回収できません。
理不尽この上ない。


そこで、行政が代わりに撤去する制度が必要になるわけです。
今回の大阪市の条例も、そのための根拠規定を創設するものです。

最初に述べた通り、ゴミなのか財産なのかの線引きは難しいので、公権力が強制的にゴミを撤去する仕組みというのは、なかなか難しいものです。
本人にとっては財産なのですから、その人の視点でいえば、「強制的に財産を奪われる制度」ですからね。
あとで損害賠償請求でもされたらたまったものじゃない。

また、他方では、本来ゴミ掃除は住人の責任でやるべきものなので(もっと意地悪なことをいえば、迷惑を被っている近隣住民が自分で裁判起こしたらいいので)、なんで税金で片付けするの?という批判が出る可能性もあります。
行政活動は全て税金で行われますから、どこまで行政が介入するかというのも、バランスが大切になってきます。


個人の生き方を尊重しつつ、他人との利害を調整するというのは、なかなか大変なものです。

では、今日はこの辺で。

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