司法書士の岡川です。
成年後見シリーズ第4回目です(第3回目は、「任意後見契約について」をご覧ください)
今日は、後見終了後の問題です。
後見が終了する原因はいろいろ(例えば、後見人が裁判所に解任される等)ありますが、もっとも一般的なのは、「本人の死亡」です。
成年後見制度は、本人の生活を支援する制度ですから、本人が亡くなられた後のことについては基本的に関知しません。
後見人等は、判断能力が不十分な方の財産を“本人のために”守る立場にありますが、本人が亡くなった後は、その財産はすべて相続人のものになるわけで、後見人等が“相続人のために”財産を守る理由がないからです。
そのため、本人死亡と同時に「後見人」としての一切の権限がなくなります。
実は、後見制度で最も悩ましい問題のひとつが、この点です。
人が亡くなった場合、亡くなった方に関して、いろいろとするべきことがあります。
例えば、役所に死亡届を出したり、葬儀や埋葬・永代供養の手配をしたり、親族等に連絡したり、遺品を整理したり、住居や家財道具を処分したり…。
後見人が相続人である場合や、相続人が近くにいてスムーズに財産を引き渡すことができる場合だと、あとのことは全部相続人に任せればよいのですが、そうでない場合、そういった「死後事務」を誰がするのかが問題になります。
制度上、“後見人だった人”に課せられた義務は、管理財産を整理して相続人に引き継ぐことだけで、葬儀の手配をしたり、引き続き家賃を支払ったりする義務は全くありません。
しかし、実際に本人の生前の諸手続を一手に引き受けており、死後も(相続人に引き渡すまで)財産を保管しているのは、“後見人だった人”です。
となると、他に誰もする人がいない以上は、現実問題として“後見人だった人”がやらざるを得ません。
しかも、それらは「後見人としての業務」としては認められないので、いくら事務処理をしても、それに対する後見人報酬は支払われません。
また、“後見人だった人”には、本人の預金(これは、既に相続財産になっている)を勝手に引き出したりする権限もありませんから、事務処理費用をどうするかという問題もあります。
これは、法改正が求められている点なのですが、法定後見の現状はそうなっています。
この点、任意後見契約の場合、こういう事態を回避することができます。
それが、前回の最後に書いた「死後事務委任契約」です。
任意後見契約締結と同時に、「死後事務委任契約」という「自分が死んだ後の事務処理を委任する契約」を締結しておくわけです。
この契約があれば、“後見人だった人”は、本人の死後、“死後事務委任契約の受任者”という立場で事務を処理します。
葬儀等の手配でも菩提寺との連絡でも、何を委任したいかは契約ですので、自由に決められます。
事務処理費用についても、事務処理に対する報酬についても、生前に契約で決めておくことができます。
全ての事務処理を済ませた後、相続人がいれば相続人に、相続人がいなければ相続財産管理人の選任申立をするなどして、管理財産を引き渡します。
相続人や親族が近くにいないような方が任意後見契約を締結する場合、同時に死後事務委任契約を締結することを推奨します。
後見制度の利用を検討する場合は、後見が終了した後のことまでしっかりと考えておくべきでしょう。
次回は、どんな人が後見人になるのかを書きます。
では、今日はこの辺で。
成年後見シリーズ
第1回「成年後見制度入門」
第2回「法定後見の類型」
第3回「任意後見契約について」
第4回「後見終了後の問題」 ← いまここ
第5回「後見人には誰がなるか?」
第6回「成年後見制度を利用するには?」
番外編「成年後見の申立てにかかる費用」
番外編2「成年後見の申立てにかかる時間」
(このほかにも、成年後見についての記事はありますので、右上の検索窓で検索してみてください)
0 件のコメント:
コメントを投稿