司法書士の岡川です。
皆さんは、「六法全書」と聞いてどんなものを想像しますか?
「六法全書」とは、普通名詞として使えば、いろいろな法令を集めた法令集のことを指します。
しかし、「『六法全書』という名の六法全書」(法令集)は、現在では一種類しかありません。
「六法全書」というのは、固有名詞として使えば、法律書の大手出版社「有斐閣」が出している法令集の書籍名です。
現在発行されている書籍の中から「六法全書」という書籍を探せば、有斐閣の本しかありません(「○○六法全書」とかいう本なら他にあるかも)。
テレビで弁護士事務所が映ったときに弁護士の背景に見える「六法全書」という文字は、確実に有斐閣の『六法全書』が入った箱が映っています。
昔は、色んな出版社から「六法全書」という書籍が出ていたようですが。
『六法全書』という名の六法全書であれ、『六法全書』以外の六法全書であれ、日本の法令全てを網羅した書籍ではありません。
『六法全書』は比較的大きな六法全書ですが、それでも収録された法令は、日本の法令のごくごく一部だけです。
「全」とか付いてますが、「全部」には圧倒的に足りないのです。
このように、「六法全書」といえば、有斐閣の『六法全書』のことを指すことがあるので、法学者とか法律実務家とか法学部生とか、とにかく法律に携わる人は、法令集のことを専ら「六法」といいます。
あまり「六法全書」とはいいません。
「六法全書」とか言えば、即座に「え?有斐閣の?」と突っ込まれること間違いなしです。
例えば、大学の試験で「六法のみ持ち込み可」とあれば、「法令集は持ち込んでいいよ」という意味で一意に定まります。
「六法全書のみ持ち込み可」と書かれると、「(有斐閣の)六法全書しか持ち込めないのかー」と思い悩み、絶望に打ちひしがれる学生が続出します。
ま、大抵は「法令集」の意味なんですけどね。
これは、この業界というか出版業界も巻き込んでほぼ共通認識のようで、『六法全書』以外の法令集は、多くが「○○六法」という名前になっています。
「判例六法」「小六法」「模範六法」「ポケット六法」「デイリー六法」「登記六法」「後見六法」などなど…。
「ナントカ六法全書」とかいう書籍はほとんどありません。
別に「六法全書」は有斐閣の登録商標じゃないので、「六法全書」という名前でもいいはずなのですが。
ちなみに、「六法」とは、本来の意味では、主要な6つの法典、すなわち「憲法」「民法」「商法」「刑法」「民事訴訟法」「刑事訴訟法」のことを指します。
あるいは、この6つの法分野を指します。
日本に近代法が整備されていった明治初期の頃にできた言葉ですので、その頃の「六法」と現在の「六法」では、指しているものが違いますが。
今では、そこから転じて、上記のように「法令集」の意味で使うことが一般的です。
「六法持ってこい」と言われて、法令集の6つの法律の部分だけ切り取って持っていくと赤っ恥を書きます。
余談ですが、伝統的に「主要な法典」の一員である商法は、元々その中に入っていた多くの規定が独立して別の法律(手形法とか小切手法とか会社法とか保険法とか)が制定されたため、今ではスッカスカの法律に成り下がっています。
まあ、今でも重要な法律であることに変わりはないのですけどね。
では、今日はこの辺で。
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