司法書士の岡川です。
「担保」と聞いてイメージしやすいのは、抵当権や質権など、当事者の合意によって設定する約定担保物権でしょう。
これらは、お金を貸してほしい側と、安心してお金を貸したい側の利害が一致した場合に、設定されます。
ところが、民法では、当事者で合意などをしなくても、ある一定の事実があれば当然に発生する「法定担保物権」というものがあります。
法定担保物権には、留置権と先取特権があります。
民法以外(商法など)に、特則もあるのですが、とりあえず、以下は民法の原則的な話をします。
民法295条には、「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。」と規定されています。
例えば、あなたが車を修理に出したとします。
車の修理屋は、修理が終わると代金をあなたに請求するでしょう。
このとき修理屋は、あなたが代金を支払うまで車を返さない(留置する)権利を有しています。
これを留置権といいます。
「金を払わないなら、こっちも物を返さない」という単純明快な権利ですね。
ただし、「その物に関して生じた債権を有するとき」ですので、全く関係のない物を留置すること、例えば、友人から車を借りて「そういえば、お前にこの前10万貸してたから、返してくれるまでこの車は俺が預かっておく」とかいうことは認められません。
そのような場合に車を留置したければ、きちんと当事者同士で合意して「質権」を設定しましょう。
法定担保物権には、もうひとつ、先取特権という権利があります。
これは、一定の種類の債権者が債務者の一定の財産から優先的に弁済を受けることができる権利です。
どういう債権者がどの財産から優先的に弁済を受けられるかは、色んなものが個別に民法その他の法律に規定されているので、全部書きだすことはできませんが、先取特権の一例を挙げると、動産の売買代金債権の債権者は、動産について先取特権を有しています。
具体的に、先取特権を有しているとどうなるかというと、例えば、売買は成立して動産の所有権は買主に移っているが、売買代金は支払われていないという場合を想定してください。
売主は先取特権を有しているので、その動産を競売にかけることができ、その競売代金から、自分の売買代金を優先的に回収することができます。
質権とか抵当権みたいに、事前に当事者同士で合意して約定担保物権を設定しなくても、それらの担保権者と同じように、債務者の所有する物を競売にかけて、優先弁済を受けることができるのです。
なかなか強力な権利ですね。
法定担保物権は、ある種の債権者であるだけで当然に担保権者になるというものなので、債権者が複数いるような場合等、非常に大きな意義があります。
債権回収をしようとする場合は、他人の先取特権に注意しましょう。
では、今日はこの辺で。
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