司法書士の岡川です。
今日、参議院選挙の公示がされました。
正確にいうと、選挙の施行とその期日が公示されます。
公示というのは、広く一般に知らせるために公表することです。
選挙の施行の公示は、日本国憲法第7条4号に、天皇の国事行為として「国会議員の総選挙の施行を公示すること。」と規定されていますので、天皇の出す文書、すなわち「詔書」という形で公示されます。
この詔書は、今日の官報に載っています。
中学校くらいで習ったと思いますが、衆議院の場合、(補欠選挙を除けば)議員全員を一斉に改選しますが、参議院選挙は、一気に参議院議員全員を選ぶのではなく、3年ごとに半数ずつ改選(よって、参議院議員の任期は6年です)します。
そこで、公職選挙法では、衆議院議員選挙を「総選挙」と呼ぶのに対し、参議院議員選挙は「総」選挙ではなく「通常選挙」と呼んでいます。
ところが、日本国憲法の規定では、天皇の国事行為は「総選挙の施行を公示」となっています。
ということは、参議院通常選挙の公示は天皇の国事行為に含まれないの?という疑問も出てきます。
しかし、もちろんそんなことはありません。
同じ単語でも法令によって違う意味に使われることは、ごくごく一般的なことです。
例えば、会社法でいう「役員」と独占禁止法でいう「役員」では、そこに含まれているものが違います。
もっといえば、同じ法令の中に出てくる単語であっても、条項によって違う意味になる場合もあります。
なので、公職選挙法の「総選挙」と日本国憲法の「総選挙」が同じ意味であるとは限らないのです。
そこで、日本国憲法を読んでいくと、7条4号は「国会議員の総選挙」となっていますね。
他方、日本国憲法の中でも、衆議院議員の総選挙に関しては、例えば54条等で「衆議院議員の総選挙」となっています。
7条4号が衆議院のことに限定する趣旨なら、ここも「衆議院議員の総選挙」となっているはずです。
そもそも、日本国憲法のどこにも「総選挙」を衆議院議員の選挙に限るという定義はされていませんし、「通常選挙」という概念も存在しません。
衆議院と参議院で総選挙と通常選挙を使い分けているのは、あくまで公職選挙法上の用例にすぎないわけです。
また、実質的に、衆議院と参議院で公示の仕方を変えなければならない理由もありません。
こういうふうに考えていけば、日本国憲法7条4号にいう「総選挙」には衆議院も参議院も含むといえそうです。
そして、実際に、解釈上(学説的にも実務的にも)、7条4号に参議院議員選挙も含むことは、争いがありません。
以前の記事で、ただ単純に日本国憲法の条文だけ読むことは、「暇つぶし程度の意味しかない」と述べましたが、この7条4号ひとつとってみても、「解釈」をしなければ内容を確定的に理解することができないわけです。
さてさて、公示がされたので、本格的に選挙活動がスタートします。
皆さん、公職選挙法に抵触しないよう気を付けましょう。
では、今日はこの辺で。
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