2013年9月27日金曜日

体罰教師の罪の軽さ

司法書士の岡川です。

桜宮高等学校の元バスケ部顧問が生徒に体罰を加え、その生徒が自殺をした問題で、元顧問が暴行罪に問われていましたが、今日、懲役1年執行猶予3年の有罪判決が言い渡されました。

桜宮高バスケ部元顧問に猶予判決 「体罰効果的と妄信」 大阪地裁(産経新聞)
大阪市立桜宮高バスケットボール部主将の男子生徒=当時(17)=が体罰を受け自殺した事件で、傷害と暴行の罪で在宅起訴された元同校教諭で同部顧問だった小村基(はじめ)被告(47)=懲戒免職=の判決公判が26日、大阪地裁で開かれた。小野寺健太裁判官は「体罰が効果的で許される指導方法と妄信し、暴力的指導を続けた責任は軽視できない」として懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年)を言い渡した。


刑法208条に規定された「暴行罪」は、仮に相手に対して直接的な打撃を加えなかったとしても成立する犯罪類型なので、殴ったのに暴行罪が成立しないということは、まずあり得ません(示談が成立しているなどで「起訴しない」ということはあり得ますが)。

そして、「体罰」とは、動機や目的がどうあれ、明確に暴力を加えているわけですから、刑法上「暴行」にあたる行為であることには違いありません。
体罰を加えたという事実があれば、(一般論としては正当行為として違法性が阻却される可能性が全く無いとはいえないものの)暴行罪が成立することは疑いありません。
それで起訴されれば、まあ確実に有罪になりますね。

ところで、判決のニュースを聞いて「人が1人死んでて懲役1年(しかも執行猶予)は軽すぎないか?」という感想をもたれた方もいるのではないでしょうか。

裁判所も「生徒は肉体的な苦痛に加え、相当な精神的苦痛を被った」と指摘しており、精神的苦痛で自殺にまで追いやったのだから、感覚的には、もっと厳しい判決が出てもよさそうです。


しかし、そもそも暴行罪という犯罪は、「精神的なもの」を保護法益として予定していません。
あくまでも、人の「身体」という法益に対する侵害行為を犯罪として規定しているのです。

したがって、元顧問が刑事責任を問われているのも、基本的に生徒を殴った身体的な痛みに対する罪責なわけです。
暴行罪ということは、生徒は怪我をしていないということであり(怪我をしていれば、暴行罪ではなく傷害罪になります)、その意味でいえば、「(類型的には)比較的軽い犯罪行為をしたにすぎない」といえます(暴行罪は、最高でも懲役2年です)。

生徒が死んだのは、分析的にみれば、「生徒の自殺行為」が直接の原因であり、例えば「元顧問が殴ったから脳挫傷で死んだ」というわけではありません。

そうすると、「体罰を加えた後のこと」である生徒の自殺に関しては、暴行罪に問われている元顧問の量刑に対して決定的に影響力を与えるものでもないことになります。

乱暴な言い方をすれば、刑法上「暴力は暴力」「自殺は自殺」なのです。
もちろん、全く無関係とは言えないので、量刑に多少は影響しますけれども、大幅に跳ね上がることはありません(跳ね上がっても上限は懲役2年ですし)。

「だったらホラ、暴行罪じゃなくて、何か他にないの?」と思われるかもしれませんが、現行刑法では、「精神的なもの」を直接保護する犯罪は存在しません。
客観的に認定が難しいということもあり、犯罪として規定するのが難しい(また、実際に適用するのも難しい)という事情もあるのでしょう。
刑法というのは、悪い(違法な)行為のごく一部だけをピックアップして「犯罪」として定めているものなのです。

自殺との関係でいえば、刑法上も、自殺幇助とか自殺教唆という犯罪はあるのですが、一般的に「精神的に追い詰めて自殺させる罪」はありません。
追い詰め方にもよっては、自殺について殺人罪とか傷害致死罪等に問われる可能性もありますが、そう簡単に認められないでしょう。

そして、刑法に規定がない以上は、それに対する刑事責任を問うことは絶対にできません。
これは、我々国民の自由を守るための大原則です(→「罪刑法定主義」)。


こういった理由のため、元顧問の罪は、引き起こした結果(生徒の死)と比較すれば著しく軽いものとなるのです。

もちろん、犯罪じゃない(というより、精神的な被害とそれに起因する自殺まで含めて刑事責任を問えない)というだけの話で、民事上の不法行為責任を問うことは可能です。
社会的制裁も免れません。


この事件をきっかけに、体罰に対する世間の見方は非常に厳しくなりました。
線引きの問題とか、いろいろ困難なことは残っていますが、少なくとも、スポーツの指導で殴ったり蹴ったりする行為は、許容する余地は無いと思われます。

悪しき慣習を断ち切って、くだらない精神論と根性論を日本から一掃してもらいたいものです。

では、今日はこの辺で。

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