2013年11月6日水曜日

悪質運転の厳罰化

司法書士の岡川です。

昨日、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律案」が衆議院を通過しました。
法律が成立するには、参議院を通過しなければなりませんが、ほぼ確実に成立することになります。

現行刑法208条の2に規定されている「危険運転致死傷罪」と「自動車運転過失致死傷罪」という犯罪類型が刑法典から分離され、今回可決された「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」の中で規定されることになりました。
危険運転致死傷罪は、創設されたときから、刑法典の中では若干異質な犯罪類型であるという指摘はあったので、この機に特別刑法として扱うことになったようです(テクニカルなことをいえば、一部が政令に委任されているので、刑法典になじまなかったという理由もあるようです。刑法典と特別刑法については、こちらの記事参照)。
自動車運転過失致死傷罪についても「自動車運転」という限定された場面を想定した犯罪なので、こちらもまとめて移動させてしまったようです(ついでに、罪名も「過失運転致死傷罪」になりました。「過失運転」ってネーミングはおかしいやろ)。

全体的に、現行法に比して、処罰対象の範囲拡大と重罰化が図られています。
特に、規範意識の鈍磨していらっしゃる悪質ドライバーの方々にはこの機に心を入れ替えていただきたく、また、一部の持病をお持ちの方にも影響がありますので、この法律が施行された場合、現行法とどう変わるのかについて解説しようと思います。

1.「危険運転」の類型追加

危険運転致死傷罪については、規定される法律が変わっただけでなく、危険運転行為とされる類型について整理されています。
基本的には、条文の規定の仕方が少し変わっただけで、現行法で犯罪とされているものについてはそのまま犯罪となっています。

それに加えて、「通行禁止道路」での暴走が新たに危険運転行為として追加されています。
元々、殊更に信号無視をして暴走したような場合も危険運転行為とされていたので、同じような理由でこちらも処罰対象となったものと考えられます。

2.中間類型の新設

現行の自動車運転過失致死傷罪と危険運転致死傷罪との中間に、新たな犯罪類型が新設されることになりました。
新設された犯罪は、「アルコール又は薬物」あるいは「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気」の影響により、「走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転」した場合に、それらの影響により「正常な運転が困難な状態に陥り」、結果として人を死傷させた場合に成立するものです。


危険運転致死傷罪は、例えば「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行」して、人を死傷させた場合に成立します。
つまり、最初から正常な運転が困難な状態で運転した場合は、危険運転致死傷罪です。

他方、運転を始めた時点では「正常な運転が困難な状態」に至らない程度に酔っぱらっていたり、あるいは、一定の病気(一時期話題になった「てんかん」等が想定されています)に罹っている場合であっても、運転している途中に酔いが回ったり病気の発作が起こったりして、「正常な運転が困難な状態」になってしまうことが考えられます。

その場合、従来の危険運転致死傷罪では、犯罪として捕捉しきれていませんでした。
そこで、最初から「正常な運転が困難な状態」で運転を始めた場合だけでなく、「正常な運転が困難な状態になるおそれがある状態」で運転を始めた場合であっても、危険なことには変わりないのだから、その危険が顕在化して人を死傷させた場合は、単なる過失犯として処理するのではなく、過失犯よりは重い(しかし、危険運転致死傷罪よりは軽い)犯罪として処理しようというのがこの犯罪類型です。

3.無免許運転の場合の加重

危険運転致死傷罪、中間犯罪(名称不明)、自動車運転過失致死傷罪のほとんどの場合で、運転していた人が無免許であった場合、犯情が重いということで、刑が加重されます。

「無免許それ自体」が事故の原因ではないとはいえ、無免許で事故を起こすような行為は違法性が大きいということです。

4.逃げ得の防止

アルコールや薬物が原因で事故を起こした場合に、その場から逃げて酔いを醒ます不届き者もいれば、事故後に重ねて飲酒することで事故時のアルコール濃度をごまかすような手法もあります。

こういう行為には、「12年以下の懲役」という、やたらと重い法定刑が用意されています。

実は、現行の道路交通法の救護義務違反が10年以下の懲役なのですが、この法定刑が定められたときも「これだけ異常に厳しい」という指摘がされていました。
今回新設された「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」は、それをさらに1段階上回る懲役12年です。
さらに、これが無免許運転なら、もひとつ上乗せして、最高懲役15年です。

これは、文句なしに重い。


例えば、刑法204条に規定された傷害罪(いうまでもなく、故意に人を傷つける犯罪)の最高刑が懲役15年です。
傷害罪には罰金刑も用意されていることから、「無免許かつ飲酒運転のひき逃げは、単なる傷害罪より罪が重い」ということです。

この罪が適用されるのは、過失運転致死傷罪の場合だけで、危険運転致死傷罪が成立する場合には適用されません。
想定しているのは、「本来なら危険運転致死傷罪が適用される場面なのに、アルコール濃度のごまかしによって立件が難しくなり、過失運転致死傷罪での立件となった」という場合だからです。
危険運転から過失運転に「格下げ」になった分、もうひとつ重い犯罪を成立させるというわけですね。



このように、基本的には、善良な市民である皆様にはあまり関係のない法改正ではあります。

ただ一点だけ、中間類型のうち、持病を持っていながら運転して、結果的にそれが事故につながったという場合だけは善良な市民も気を付ける必要があるかもしれません。
事故につながるような病気を知っていながら運転し、結果的にそれが事故につながった場合、単なる過失ではなくて、より違法性が高い故意犯(結果的加重犯)であるということになります。

一定の持病がある皆さん、犯罪にならないよう気を付けましょう。

では、今日はこの辺で。

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