2014年4月17日木曜日

自力救済禁止の原則

司法書士の岡川です。

自らの権利の実現(回復)のために、法的な手続きを経ず、実力行使(「私力の行使」とも)を行うことを「自力救済」といいます。

例えば、賃貸住宅の借主が家賃を滞納しているときに、家主が実力をもって物件を明け渡させるような場合です。
具体的には、借主の留守中に家に入って中の荷物を全部外に出し、鍵も付け替えてしまうような方法です。


近代法秩序の下では、権利の実現は、法的(主に司法)手続を通じて行うことが要請されており、個人が勝手に強制的な権利実現を図ることは禁じられています。
これを「自力救済禁止の原則」といいます。


もちろん任意の和解交渉によって、双方合意の下で権利を実現することは何の問題もありません。
上記の例でいえば、和解契約に基づいて、借主に退去してもらうというのは自由です。

問題は、強制的に相手を賃貸住宅から退去させたいときで、この場合は、「建物明渡請求訴訟」を提起したり、民事調停を申し立てるなど、裁判所の手続きを経たうえで、判決書や調停調書などの「裁判所のお墨付き」に基づいて強制執行を行わなければなりません(色々方法はありますが、代表的でわかり易いのが訴訟ですね)。

いちいち法的手続きを経なければいけないというのは、面倒な面もありますが、それは、我々が無秩序な社会ではなく近代の法治国家で生きているからです。
皆が法に基づいて行動することが要請され、法的手続を経ない実力行使が禁止されることで、自分たちの身も守られているわけです。

したがって、面倒だからといって司法手続を飛ばして実力行使に出れば、権利行使した側が逆に違法となります。

上記のような実力を持って借主を退去させる、いわゆる「追い出し行為」は、不法行為として損害賠償の対象となります。
「家賃滞納」で訴える権利を持っている側が逆に不法行為で訴えられるわけです。

そうなったら、家主は賠償責任を負って損をするし、借主は不法行為の被害で損をする。
誰も得をしませんね。


さて、例によって「原則には例外がある」もので、自力救済が例外的に認められる場合もあります。

すなわち、「法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許される」というのが判例です(最判昭和40年12月07日民集19巻9号2101頁)。
ま、この判例は、自力救済を認めなかった判例なんですけどね。

要するに、法的手段では権利の実現ができない場合、現状維持のために緊急的に行う最低限の実力行使は認められることもあるよ、ということです。

例えば、今まさにあなたの自転車が盗まれようとしている場面に出くわした場合、それをみすみす見過ごして、きちんと動産引渡請求訴訟を提起しろ、というのはあまりにも酷なわけですね。
逃げられたら、もうどこの誰を訴えればいいのかも分からなくなります。
そのような場合は、自力救済(その場で奪い返す)でも認めなければ、権利者を保護できません。


そのような例外的な場合を除けば、基本的に自力救済は違法です。

法的手続は色々ありますので、くれぐれも実力行使だけはやめましょう。


では、今日はこの辺で。

(追伸)
とかいう記事を書いてたら、ちょうど追い出し屋の裁判が・・・。
何このタイミング。
こういう事態になっちゃうんで、いくら家賃滞納で困っても自力救済はやめましょうね、ほんと。
家賃滞納したら家財撤去され 「追い出し」違法と提訴
(追伸の追伸)
よく読むとこの事件、保証会社の事案ですね。
保証会社は賃貸借契約の当事者(賃貸人)ではないため、自力救済ですらない単なる不法行為と認定されます。


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2 件のコメント:

  1. >保証会社は賃貸借契約の当事者(賃貸人)ではないため、自力救済ですらない単なる不法行為と認定されます。

     条件の成否について、当事者間に争いがあり、成否が未定である間において、条件が成就した場合に生ずべき当事者の利益を譲り受けて、他方の当事者に対し、権力を行使することを業とすることは、弁護士法 違反にも該当するのではありませんか?
    ___

    弁護士法 第十章 第七十七条
    次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
    四 第七十三条の規定に違反した者

    弁護士法 第九章 第七十三条
    何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。

    弁護士法 第十章 第七十八条2項
    法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して第七十七条第三号若しくは第四号、第七十七条の二又は前条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。

    憲法 前文
    そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。
    これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。

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    1. 追い出し行為について弁護士法違反が認定された裁判例もありますね。

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