日常的に使われる日本語と法律用語とでは、同じ単語でも意味が異なるということはよくあります。
例えば、普通「社員」といえば、会社に雇われている従業員(会社員)のことをいいますが、法律用語としての「社員」は社団の構成員をいい、株式会社であれば社員とは株主のことです。
同じく、よく例に挙げられるものとして、「善意」「悪意」という法律用語があります。
日常的に使われる日本語としては、善意とは「親切心」とか「好意」のような意味、悪意とはその反対で「害意」とか「悪気」の意味があります。
ところが、法律用語の「善意」「悪意」は、善悪の意味は含まないことが一般的です。
すなわち、この場合、
「善意」とは、単に「知らないこと」
「悪意」とは、単に「知っていること」
を意味するのです。
例えば、条文に「善意の第三者」とあれば、それは「ある事項を知らない第三者」という意味であり、「善良な市民」とかそういう意味はありません。
反対に、条文に「悪意であった場合」とあれば、「そのことを知っていた場合」という意味です。
倫理的・道徳的な意味での善悪とは無関係な用語というわけですね。
このことは、法律を学ぶと最初の方に出てくる知識なので、少し法律をかじったことがある方なら知っているかもしれません。
ただし、これだけの知識だけで「全てわかったつもり」になるのは危険です。
今日は、こういう記事を見つけました。
理系は「悪意」の意味が分かっていない!(STAP論争)
しかし、そもそもこうした規定や法律などで使われる「悪意」は、法律用語として解釈しなければいけません。なお、当然私は文系ですけど、「理系は」という無意味なレッテル貼りをした論説は極めて不適切であると思うのですが、この点はとりあえずスルーしましょう。
そして、法律用語としての「悪意」には、何ら倫理的な意味合いは含まれていないのです。。法律用語として「悪意」とともに、「善意」という言葉も使われますが、これにも倫理的な意味は含まれません。行為者が、ある事実について知っているか、知らないかを示すのが、「悪意」であり「善意」であるのです。従って、例えば、結果的に、誰かの論文を無断で引用したような場合、当該文章が他人の文章であることを知らずに、結果として無断引用してしまった場合などには「悪意」には該当しないのですが、しかし、それが他人の文章であるのを知っていて無断引用してしまえば、格別誰かを騙す意図がなくても、「悪意」として認定されてしまうのです。
皆さんも、そこは全力でスルーしましょう。
さて、法律用語として一般的な「善意」「悪意」の理解は前述の通りです。
しかし、法律用語としての「悪意」であっても、単に「知っている」だけでなく、倫理的な意味合いが含まれることがあります。
例えば、民法に規定された法定離婚原因や法定離縁原因には、「悪意で遺棄されたとき」というものがあります。
ここでいう「悪意」とは、単に「知っていて」という意味ではなく、「倫理的に非難されるべき」のような価値判断を含んだ意味だと解されています。
また、破産法で非免責債権とされている「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」という場合の「悪意」についても、単なる故意ではなく、積極的な害意であると解されています。
他にも、「悪意」といった場合に「単に知っている」という以上の意味が含まれた規定は多くあります。
これらは別に、「ここでの『悪意』とはこういう意味」と定義づけられているわけではなく、いずれも解釈によって意味が決まってくるものです。
つまり、「法律用語としての『悪意』とは単に『知っていること』という意味。だから、理研の規程でいう『悪意』もそういう意味だ」と単純に断定できるものではなく、「悪意」がどんな意味であるかは、それぞれの規定の文言や趣旨に鑑みて結論付けなければならないことなのです。
そして、理研の規程をみてみると、「悪意のない間違い及び意見の相違は含まない」とあります。
「知っている」という意味での「悪意」とは、そういう状態のことですから、「ある」とか「ない」とかの問題ではないので、もしこの意味なら「悪意のない」のような言い回しは不自然です。
これが法律の条文なら、「知らなかった」という意味にしたければ、端的に「善意」と規定しているでしょう。
法律の条文で「悪意のない」とか「悪意がない」という言い回しは出てきません。
「悪意があった」という表現は、法律の条文でも若干みられるのですが、そこでの「悪意」には、単に「知っていた」という以上の何らかの意味が付加されている場合が多いように思います。
このように、規定の仕方から、「知っていること」の意味ではなさそうだと解することができます。
そこで、どういう意図で規定されたのか、ガイドラインか何かは無いのか探してみると、理研による「科学研究上の不正行為へ基本的対応方針」という文書に、
米国連邦科学技術政策局:研究不正行為に関する連邦政府規律2000.12.6連邦官報pp.76260-76264の定義に準じる。とありました。
その連邦政府規律とは、「U.S. Federal Policy on Research Misconduct」のことです。
そこで、対応部分を見てみると、「Research misconduct does not include honest error or differences of opinion.」とありますね。
「honest error」とある以上、ここは、知不知の問題ではなく「誠実さ」「害意の無い」の意味であると考えられます。
理化学研究所の調査委員会の報告会見においても、委員は「知っていながらという意味」と説明していますが、理研自身が「honest error」に対応させて「悪意のない間違い」と規定している以上、その解釈には疑問が残ります。
ハッキリと明確な結論は出せません(判例があるわけでもないので)が、少なくとも、
法律用語だとしても、必ずしも「悪意=知っている」ではない
ということは確かですので、そこんところお間違いなく。
では、今日はこの辺で。
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