2014年5月8日木曜日

色々な法形式

司法書士の岡川です。

国家権力を背景に、強制力を伴う規範を総称して「法」とか「法規範」といいます。
代表的な法は「法律」ですが、法律以外にも法が存在します。

日本における現行の法形式をご紹介しましょう。
まずは、国の機関が定める法形式から。

1.憲法

「憲法」というのは、国家の最高法規で、他のあらゆる形式の法令に優先します。

この「憲法」という形式の法は、日本においては日本国憲法しかありません。
日本国憲法は、法律と違って制定や改正に特別の手続が必要で、国民投票で改正されます。


2.法律

国会で制定される法です。
日本国憲法において、国会が唯一の立法機関であると定められていますが、この「法律」を制定することができるのが国会だけであることを意味します。

民法も刑法も会社法も司法書士法も、全てこの意味での「法律」です。
基本的に「○○法」とか「○○に関する法律」という名前が付けられます。


3.命令

行政機関が制定する法を総称して「命令」といいます。
「命令」という語は多義的なので、その辺はまた後日書くとして、ここでの命令は「○○しろ」といった命令ではなくて、法形式としての命令です。
命令は行政機関の立法であることから、法律の委任がなければ罰則を付すことができない等の制限があります(→罪刑法定主義の派生原則その1「法律主義」)。

国法の形式としての命令には、次のようなものがあります。

(1)政令

内閣が制定する命令です(制定するのは、内閣総理大臣でも内閣府でもありません)。
具体的には、閣議で決定されます。

「○○法施行令」とか「○○に関する政令」のような名前が付けられます。

(2)省令

各省大臣が制定する命令です。
法務大臣が制定するものが「法務省令」で、総務大臣が制定するものが「総務省令」と呼ばれます。

なお、内閣府の所管の大臣として内閣総理大臣が制定する法は「内閣府令」といいます。
「省」ではないのですが、効力としては同格なので、両者を合わせて「府省令」ということもあります。

また、かなり特殊な例ですが、東日本大震災の後に「復興庁」という行政機関が設置されており、内閣総理大臣が復興庁の命令として「復興庁令」を制定することもできます。
これも、省令と同格です。

省令は、「○○法施行規則」とか「○○に関する省令」のような名前が付けられます。

(3)その他

特殊な行政機関(会計検査院や人事院)や、各省の外局(金融庁とか公正取引委員会)が制定する命令も存在します。
人事院規則とか、金融庁令とか、公正取引委員会規則といったものです。
庁令は、正確にいうと長官が制定します。


4.議院規則

国会ではなく、衆議院や参議院が、内部の規律のために制定する法として、独自に議院規則を制定することができます。


5.最高裁判所規則

最高裁判所が、裁判手続の細目を定めたり、裁判所内部の規律のために制定する法として最高裁判所規則があります。
刑事訴訟規則とか民事執行規則とかですね。


ここまでが、国の機関が定める法形式。
このほか、地方公共団体で制定される法もあります。

6.条例

地方公共団体の議会で制定される法です。
大阪府の条例であったり、高槻市の条例であったり、都道府県市区町村議会が制定するものです。


7.(地方公共団体の)規則

内閣や省庁が命令を制定できるように、地方公共団体の行政機関である知事や市長なども法を制定できます。
地方公共団体の長が制定する法を「規則」といいます。

「規則」という語も多義的ですが、地方公共団体の規則は、知事や市長が制定する法形式なのです。



かつては、天皇が制定する「勅令」や、太政官が制定する「太政官布告」なども存在しましたが、今では廃止されています。

実は今でも効力を有するものはいくつかありますが、効力としては、現行の法形式に改められています。
例えば有名どころでは、刑法典より古い刑法である「爆発物取締罰則」というのは、制定時の法形式としては太政官布告(明治17年太政官布告第32号)です。
最近でもオウム真理教の事件などで適用されている現行の法ですが、効力としては「法律」なので、改正も国会で行うことができます。

ちなみに、司法書士が日本の法制史上初めて登場した明治5年の「司法職務定制」という法は、「太政官達」という太政官が制定する法形式です。


なお、「法令」という語は、基本的には「法律と命令」の略なのですが、それ以外の法形式(憲法とか条例とかも)を含めて指す場合もあります。


ここまで細かい知識は、日常生活で問題になることはあまりないでしょうが、「法律以外にも色々ある」ことくらいは覚えておくとよいかもしれません。

では、今日はこの辺で。

→それぞれの優劣については「上位法と下位法

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