2014年8月11日月曜日

相続放棄を忘れずに

司法書士の岡川です。

繰り返しになりますが、人が死ぬと相続が開始します。
相続は絶対に開始します。

大事なことなので2度言いました。
相続は絶対に開始するのです(大事なことなのでダメ押しで3度言いました)。


さて、相続というのは、亡くなった方(被相続人)の財産や権利義務、法律関係、法的地位等々、一身専属的なもの(例えば、親権とか組合員の地位とか司法書士資格とか)を除いて、全てを包括的に承継する制度です。
これを「包括承継」といいます。
売買や贈与のように、「私の持っているこの土地をあなたに売る」といったものではありません。

したがって相続人は、「預貯金はもらうけど、実家のボロ家はいらない」とかいうように、財産を選択的に取得することはできません。

気を付けなければならないのは、相続によって包括的に承継する財産には、価値がプラスの積極財産と、価値がマイナスの消極財産の両方が含まれています。
消極財産とは、要するに借金などの債務ですね。
また、形式的にはプラスの財産(例えば不動産)であっても、実質的には、その維持管理に費用が掛かって誰も欲しがらないような財産というのもあります。

相続では、財産を選択的に取得できませんので、「土地はもらうけど、ローンはいらない」という都合のいい承継は認められません。
逆に、「親の借金は全て引き受けた。だが現金はいらん!」ということも無理です(そんな人いないと思いますが)。

そうすると、親が莫大な借金を残して死んだ場合などは、放っておけば、それをそのまま相続人が引き継ぐことになります。
場合によっては、相続人にとって自分と関係のないところで過大な負担を強いられることになってしまいます。

そこで、親の借金や資産価値のないボロ家等の負担を引き継ぎたくない場合の救済として、「相続放棄」という制度があります。
相続放棄とは、特定の財産ではなくて、相続人としての地位全体を放棄する制度です。
すなわち、「遺産のうち、これ(例えば借金)はいらない」といったことは認められませんが、「プラスもマイナスも全部いらない」ということは認められます。

相続放棄すると「そもそも相続人ではない」ことになるので、相続財産の全てについて承継することがなくなります。


この相続放棄ですが、「私は相続放棄するからそっちで勝手にやってくれ」というような方もおられますが、そう簡単に口で言っただけで放棄できるものではありません。
必ず家庭裁判所に「相続放棄の申述」をしなければなりません。
しかも、自分が相続することを知ったときから3か月以内にする必要があります。
この期間内(熟慮期間といいます)に裁判所で手続をしなければ、法的には、相続することを承認したことになります。

相続を承認すれば、いくら個人的に「私は相続しない」と言い張ったところで、相続分に応じて承継します。
もちろん、借金もです。


「私はもう縁を切っている」とか「実家とはもう関係ない」と言って、手続の協力や債務の弁済を拒む方もいますが、本当に「縁を切った」のであれば、被相続人が亡くなったことを知った時点で、きちんと相続放棄の手続をしなければなりません。

その手間を怠り、相続放棄の申述をせずに放置すれば、縁を切ろうが付き合いがなくなろうが相続人であることは確定します。
親の借金も支払う義務がありますし、それについて文句を言う筋合いがなくなります(なぜなら、放棄しなかった=承認したのだから)。


というわけで、相続というのは、承継の手続も大切ですが、「承継しない」ための相続放棄手続も非常に大切です。
気をつけましょう。


では、今日はこの辺で。
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3 件のコメント:

  1. お忙しいところ、すみません。
    相続に関して教えて頂きたくコメントさせて頂きました。

    先日、知らない土地の地籍調査の境界立ち合い依頼の通知が市から届きました。(現住所からずいぶん離れた場所)
    登記名義人は祖母の妹さんのご主人でになっており、
    その土地の所有者、または法定相続人に対しての通知でした。
    そのご主人は、ずいぶん前に亡くなられていて
    その後、妻である祖母の妹さんも亡くなられ(ご夫妻に子は無し)
    その後私の父が亡くなり、そして祖母が亡くなりました。(10年前)

    私はその土地の存在は知りませんでしたし、
    自分がその土地の法定相続人になっている事も
    知りませんでした。
    ですので、もちろん固定資産税を
    支払っているわけでもなく、
    相続放棄の申請をしたいところですが、被相続人にあたる
    祖母の預貯金を10年前に相続済です。
    こういう場合、この土地の法定相続人の放棄は出来ないですよね?
    法定相続人のうちのどなたかが固定資産税なども
    支払っておられると思うのですが(実際の所有者?)
    その方が地籍調査の境界立ち合いに行かれると思うので
    私は出席しなくても、市の業務に支障がでる事はないと
    考えてよいでしょうか?その方が現在、そこにお住まいかどうかも詳しくわからない状況です。実際の所有者(?)の方が
    固定資産税を支払い、土地の権利書(?)をお持ちであり
    その方への出席依頼の通知と考えてよいでしょうか?




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  2. >匿名さん

    おっしゃるとおり相続放棄はできないと思われます。

    お祖母様に他に兄弟姉妹がおられましたら、その方々が法定相続人になっており、その中の誰かが相続人代表として固定資産税を支払っているものと思われます。

    ただ、権利書を持っていても固定資産税を支払っていても、遺産分割協議が終わっていない以上は、その人が所有者ではなくて、相続人全員の共有状態になっています。


    そこで、立会いについては、法定相続人全員かその中から選んだ代表者(それらの人から委任を受けた第三者)が立ち会うことになります。
    最悪、立会がなくても手続を進めることは可能なのですが、「支障が出ることは無い」ということもないので、おそらく委任状等の提出を求められると思います。

    実際に足を運ぶ必要はないですが、少なくとも、誰か適当な人に委任する形になると思います。
    誰に委任すべきかは、事情が分かりませんのでお答えしかねますが、市の担当者に詳しい事情を問い合わせたうえで検討してみてください。

    返信削除
    返信
    1. お返事ありがとうございました。

      固定資産税を払ってもいないのに権利は
      あるのですね。
      その方に申し訳ない気持ちで
      いっぱいになります。

      市からの通知の中に委任状も入っていましたが
      委任出来る人もおらず、その土地が
      少々離れている場所であり、
      また、現在精神的にややうつ状態で
      足を運ぶのは苦痛だと感じていたのですが・・・。

      ありがとうございました。お世話になりました。

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