2014年8月4日月曜日

お医者さんのための成年後見診断書作成入門

司法書士の岡川です。

成年後見の申立てには、医師の診断書が必要です。
精神科医や心療内科医は、日常的に成年後見制度に接することもあるので、ほぼ問題なく対応していただけるのですが、申立てに必要な診断書は、別に専門医でなくとも、内科医でも外科医でも皮膚科医でも耳鼻科医でも作成することができます。
噂では歯科医でもいいらしいのですが、見たことはありません。
一般的には、「かかりつけの医者に書いてもらう」ことになるので、専門に関わらず診断書作成を依頼される可能性があります。

診断書の作成自体は、医師の専権事項なので、医師の専門的知見に基づいて書いていただけば良いのですが、同時に成年後見制度について基本的な点は理解しておいていただかないと、診断書の内容と法的な判断が乖離してしまう(場合によっては書き直し)ということもあるので、注意が必要です。

今日は、司法書士から見た、精神科が専門でないお医者さんのための診断書作成のポイントを解説します。


まず絶対に外してはいけないのが、成年後見は「判断能力が低下した場合」の制度だという点。
たとえ身体的な要因で日常的な介護が必要であったとしても、頭がしっかりしていれば、後見が開始することはありません。

特に、医師が診断書の作成を依頼されている場面というのは、基本的にはその患者について法定後見の申立の準備をしているときです。
法定後見の場合、その時点で既に判断能力が低下していることが確認できなければなりません。

判断能力が十分な場合において財産管理や諸手続に支援が必要なのであれば、任意後見契約や財産管理契約によって対応することになります。

したがって、例えば「半身不随で日常的な支援が必要」といった理由で「後見相当」にチェックを入れた診断書が出されても、それは理由と結論が一致していないことになります。
改めて「判断能力の点ではどうなのか」を書いてもらう必要がありますし、もし「判断能力に問題なし」と書かれていれば、「後見相当」という診断書であっても、司法書士としては「申立ては不可」と判断することになるでしょう。


それから、これも誤解しがちですが、法定後見には「後見」「保佐」「補助」の3類型がありますが、一番重い「後見」であっても、必ずしも「完全に寝たきり」とか「コミュニケーションが一切とれない」ような場合とは限らないということです。
会話がきちんと成立し、日常的な買い物くらいは自分でしていても、財産管理について不安や損害を被る危険がある場合、後見相当となることはよくあります。
法律上、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」については、後見人の同意が不要とされています。
つまり、その程度の判断能力がある人も後見相当となることが想定されているわけですね。


また、判定根拠の記載が重要になります。
どういう理由でその類型に該当すると判断したのかを、できるだけ具体的に書いていただき、「判断能力の低下している」ことが確認しやすい記載になっていることが望ましいです。
判断能力低下の原因や、現在の症状、具体的に困難が生じていること等ですね。

特にHDS-Rの値が20を超えている場合などは、所見が丁寧に書かれていると申立書も作りやすいですし、裁判官や調査官も納得しやすい(はず)。
鑑定が入ることもなく、費用も時間も節約でき、スムーズに手続が進む可能性が高くなります。


このようなポイントを押さえて丁寧な診断書を書いてもらえると、司法書士的には、「お、次からはこの医者を紹介しよう」となるわけです。
患者さんとそのご家族の負担軽減ため、ご協力よろしくお願いします。

では、今日はこの辺で。


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