2014年10月10日金曜日

「委託契約」とはどんな契約か

司法書士の岡川です。

「委託」という言葉は、一般的には(特にビジネスの世界では)よく使われるものです。
他人に何か(仕事)を任せるとか頼むというような意味で、巷には「業務委託契約」とか「営業委託契約」といった、「委託契約」という名の契約が溢れかえっています。

しかし、実は民法(基本的な契約類型などを定めた私法の一般法)には「委託契約」という類型はありません。
のみならず、概念的にも、契約分類として「委託契約」とは何かを定義づけることはできません。

「委託契約」という名の契約は、「他人に何かを頼む契約」程度の意味しかなく、法的な性質は個々の契約ごとに全く異なっているからです。
そのため、「委託契約には、どの法律のどの規定が適用されるか」という問いに答えることもできないのです。


「委託契約」という名の契約が締結されている場合、実際にはどういう法的性質の契約なのかは、その中身で判断するしかありません。

例えば、法律行為(例えば契約締結や示談交渉、商取引など)を委託する契約であれば、これは法的には「委任契約」といいます。
法律行為以外の事務を委託した場合は「準委任契約」といいます。

委任や準委任は、その事務を処理すること自体が契約の内容です。
仮に委任者の希望に沿った結果が出なかったとしても、それは契約違反にはなりませんし、契約で報酬の取り決めをしていれば、受任者は事務処理に対する報酬を受け取ることはできます。


他方で、「仕事の完成」が契約の内容となっている場合、これは法的には「請負契約」といいます。
請負契約の場合、仕事の結果によって報酬が発生するので、「頼まれていた仕事を完成させようといろいろ努力したんですが、結局完成しませんでした。でも働いたんでその分の報酬ください」といっても基本的には認められません。


また、場合によっては「雇用契約」の場合もあります。

従業員を「雇用」すると、労働法(労働契約法とか労働基準法とか)の厳しい規制対象になりますし、社会保険の関係でも雇用主には様々なコストが発生します。
そこで「業務委託契約」という契約にして、「従業員として雇用したのではなく、個人事業主へ委託したのだ」という形をり、様々な規制やコストを回避する方法がとられることがあります。

しかし、仮に契約書のタイトルが「業務委託契約」であったとしても、使用従属関係があれば、その実質は雇用契約だということになります。


このように、よくわからない「委託契約」ですが、何契約か微妙であったりハイブリット的な契約だったりすると、「委任契約」とか「請負契約」と断定するより、「委託契約」とぼかしていた方が納まりがよいという面はあります。
意味が漠然としている分、使いやすいので、よく使われているのでしょうね。

どうせ契約のタイトルは契約の性質には一切影響しない(「お仕事おまかせ契約」とかでもいいわけです)ので、やたらめったら「委託契約」という名の契約が溢れていること自体は特に問題はないのですが、契約当事者となるときは、実際にはどういう契約なのか、はじっくりと検討する必要があります。

では、今日はこの辺で。

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