2014年10月8日水曜日

「限定承認」という制度も覚えておきましょう

司法書士の岡川です。

人が死んで相続が開始した場合、相続人は、その相続を放棄することができます(→参照「相続放棄を忘れずに」)。
ただし、3か月以内に放棄をしなかった場合や、3か月以内でも相続人として行動した場合などは、相続を承認したことになり、その後は放棄することができなくなります。

誰もが「相続財産のうちプラスの方が大きいなら相続したいし、そうでないなら放棄したい」と考えるでしょうが、問題は、相続人にとって、被相続人の財産を3か月以内に全て明らかにすることは必ずしも簡単なことではないということです。

相続財産の中に思わぬ大きな借金があったりすれば大変です。


そこで、「限定承認」という制度があります。
これは、プラスもマイナスも完全に承継するという単純承認とは違い、「プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を支払う」という制度です。

例えば、預金が1000万円とした場合、借金が200万円なら、1000万円の中から200万円支払って、差し引きで800万円が残ることになります。
これは、単純承認の場合でも同じですね。

借金が1000万円なら、1000万円から1000万円支払うので、手元に残るのはプラスマイナスゼロです。
これも単純承認の場合と同じです。

借金が1200万円あった場合、承継したプラスの財産である1000万円の中から1000万円を支払うだけでよく、それ以上は支払わなくて済みます。
このとき仮に単純承認していれば、承継した預金の1000万円を借金に充当したとしても、残りの200万円分は相続人が自腹を切らなければなりませんが、限定承認なら承継した1000万円を超えて自腹を切ってまで1200万円全額を支払う必要がなくなります。

つまり、「少なくともマイナスにはならない」(最悪でも差し引きゼロになる)というのが、限定承認なのです。

何ともお得な制度ではありますが、気軽に「あ、じゃあ限定承認します」と宣言すればよいというものではなく、財産目録を作成してから家庭裁判所に申述した上で、債権者を探すために官報公告や催告をした後に弁済するという、一連の清算手続する必要があります。
やってやれないことはないですが、面倒な手続が必要で手間暇かかるうえに、税務上も色々とややこしいので、あまり利用されていません。
明らかに多額の借金があるならさっさと放棄した方が楽です。

とはいえ、「借金はあるけど、総額が不明だから、差し引きしたらプラスかマイナスか微妙なところ」という場合には、大いに利用価値がありますし、他にも、「多額の借金はあるけれど、どうしても承継したい財産(例えば家など)がある」という場合にも使えます。

例えば、被相続人に1000万円の借金があったとして、プラスの財産が200万円の価値の不動産だけの場合、相続人がその不動産を取得したければ、限定承認したうえで、自腹で200万円を弁済すればよいのです。


何はともあれ、タイムリミットは3か月です。
それまでに単純承認するか、限定承認するか、放棄するかの選択を迫られます。

四十九日が終わった頃にはもう残り2か月を切っています。

日頃からどうするか考えておくと良いかもしれないですね。

では、今日はこの辺で。


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