司法書士の岡川です。
今日は「遡及効」のお話。
「そきゅうこう」と読みますが、一般にはなかなか耳慣れない言葉だと思います。
「遡及」というのは、文字から意味は推測できると思いますが、「さかのぼる」という意味です。
もっといえば、時間の流れを遡ること、つまり過去に戻ることです。
実は、このブログでも、今までに何度か出てきたことがあります。
そう、おなじみの「遡及処罰の禁止」の「遡及」ですね。
遡及処罰の禁止というのは、新しくできた法律を遡って過去の行為に適用して処罰してはいけない、という罪刑法定主義の派生原理です。
その「遡及」に「効」がつくので、遡及効というのは、「過去に遡って効力が及ぶ」という意味になります。
法律で規定されているルールというのは、単純にいえば、
「一定の法律要件を満たせば、一定の法律効果が生じる」
というものなのですが、一定の要件を満たしたときに生じる効力が過去に遡ることがあり、それを「遡及効がある」のように表現します。
例えば、成年被後見人の意思表示や、詐欺・強迫による意思表示は、取り消すことができます。
この「取消し」の効果というのは「意思表示が無効になる」というものなのですが、じゃあ「いつから無効になるのか」ということも考えなければなりません。
「取り消した時点から将来に向かって無効になる」のであれば、例えば「過去に支払ったお金は返してもらえないが、まだ支払っていないお金は支払わなくてもよい」というような結論になりそうです。
しかし、取消しの効果としては「取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。」と規定されています(民法121条)。
「契約がなかったことにする(取り消す)」というのは、「もうこれで終わり(今後は無し)」なのではなく、「最初からなかったことにする」ということになるのです。
「今」契約を取り消したのに、「無効になる」という効果は「過去の時点(契約時など)」に遡って生じる。
これを専門的に表現すれば、「遡及的に無効」といいます。
他には、例えば代理権を与えられていない人が勝手に代理人として契約をした場合を考えてみましょう。
基本的には、その契約の効果は本人に帰属しません(自称代理人が勝手にやったことなので)。
このとき、勝手に契約されたことを知った本人が「その契約いいね!」と思えば、後から契約を認めることができます。
これを「追認」というのですが、この追認の効力は契約のときに遡ります。
つまり、追認時に改めて契約の効力が生じるのではなく、最初から何の不備もなく契約が締結されたものとして扱われることになります。
これも遡及効です。
ちなみに、遡及効の対義語は「将来効」。
これは、「今から将来に向かって効力が生じる」ということで、過去にまで効力は及びません。
このように、法律の世界では、「過去にさかのぼる」ということがよくあるのです。
では、今日はこの辺で。
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