2015年5月19日火曜日

担保権の実行

司法書士の岡川です。

以前紹介した強制執行というのは、債務名義に基づいて、自己の権利を強制的に実現させる民事執行手続です。
典型的には、まず訴えを提起して判決を得て、執行機関に申し立てて不動産を差し押えて競売にかけ、売却代金を未払債権の弁済に充てる…といった流れで債権を回収することになります。

これに対し、債務者から担保をとっていた場合、その中でも特に質権や抵当権といった物的担保(担保物権)を設定していた場合、債権回収までの流れを一部省略することができます。

「担保」は、前回書いたとおり、債務不履行に備えて債務の弁済を確保するための手段であり、「債務不履行に陥ったらいつでも売り払ってよい」といった合意の下に提供されているものです。
なので、実際にそれが可能な制度でなければ意味がありません。

そこで、担保権を有している債権者は、担保権それ自体の効力(換価権)に基づいて、目的物を換価することができるようになっています。
これを「担保権の実行としての競売」といいます。

「担保権の実行としての競売」も、強制執行と同じく民事執行手続の一種です。


例えば、あらかじめ債権者が債務者の不動産に抵当権を設定しておけば、わざわざ苦労して債務名義を取得しなくても、抵当権それ自体に基づいて差押えをすることができます(もちろんその後に競売することもできます)。
通常、抵当権は登記されていますので、申立時に必要な書類は登記事項証明書(登記簿謄本)で足りるわけです。

訴訟手続がまるまる省略できるわけですね。


強制執行としての競売も担保権の実行としての競売も、「債務不履行になったから財産を差し押さえて競売にかける」という点で共通していますが、前者が債務名義に基づくものであるのに対し、後者は担保権に基づくものであり、一応別の手続ということになります。


もっとも、実際の手続は類似しています(というか、強制執行の規定が多く準用されています)ので、同じようなもんといえば同じようなもんですね。


ちなみに、前回も書きましたが、人的担保に関しては競売(保証人を人身売買?)ということがありえないので、保証人から債権を回収しようと思えば保証人に対する債務名義を取得することになります。

では、今日はこの辺で。

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